第二十四話 取調べ室(1)
一時間と待たずに乗用車が京香の家の前に止まった。三人は、パトカーが来るものとばかり思っていたので、少々残念そうだ。
「パトカーなんて、人生で乗れるかどうかって位に、貴重な体験だったのに。残念だなぁ」
瑛子が窓から乗用車を眺めながらぼやいた。
「警察も気を遣ってるって事よ」
京香が皮肉たっぷりに言った。
「何で? 何に気を遣ってるわけよ」
「あのねぇ、パトカーが家の前に止まったら、近所の人はどう思うよ」
「どうって……」
「更に、この家の娘がパトカーに乗るわけだ」
夏美が京香の言葉を引き受けた。
「近所の人はカーテンの隙間から見るだろうねぇ『あーら、沢渡さんとこの京香ちゃんが警察に連行されるわよ。あの子は何かやらかすと思ってたけど、やっぱりやらかしたわね。うんうん』ってことになる」
「なるほど! パトカーだと真実味があり過ぎるわけね」
百パーセント理解したぞと言いたげに、瑛子が大きな声を上げた。
「ちょっと! どれだけ私が悪い子になってるわけよ!」
そんな話で盛り上がっていると、玄関のチャイムが鳴った。玄関を開けると、そこには極普通のオジサンとオバサンが立っていた。
思わず三人が目を合わせる。ドラマの中だと、ヨレヨレのオジサンと若くてイケメンのお兄さんコンビで登場と決まっているのだが、どうしてだかオバサンとご一緒だ。
あまりにもイメージとかけ離れたシチュエーションに落胆を隠せずにいると、オジサンはドラマと同じ様に、警察手帳をだして「中央警察署の萩原です」と言ったのだ。思わず、三人の目が警察手帳に吸い寄せられた。そして、同行してきたオバサンも同じ様に警察手帳を出して名乗った。
この時、三人の頭の中では「うほー!」「おぉぉぉぉ!」「わぁー!」と喚起の雄たけびが上がっていた。
「忙しいところ申し訳ないけど、署までご同行願えるかな?」
「あ……はい」
「お父さんか、お母さんはいるかい? 出掛けることを話しておかないと心配されるだろう?」
「大丈夫です。両親は仕事なので」
京香が応えると、三人とも大きく頷いた。この場合、誰の親が共働きで、誰の親が家にいるかなどは関係なくなっている。とにかく、この夏のメインイベントになりそうな今に、心は飛んでいた。
「そうか、あまり時間は掛からないようにするからね。じゃぁ、出掛ける準備をしてくれるかな」
「もう、出来てます!」
三人の声が揃って、ニッコリと笑った。
警察署に着くまでに、萩原が刑事であることを聞き出した三人は不思議な感覚に捕らわれていた。
ドラマなどではイケメンの刑事が格好良く犯人逮捕のために走り回っているが、実際刑事なんていうものは、目つきが悪く、どちらかといえばやくざと同等くらいのイメージだと聞いたことがある。ところが今、目の前にいる刑事は、どこにでもいる単なるオジサンなのだ。決して刑事に見えないのだから、三人の興味が異常なほどに膨らむのも無理はないだろう。
「何か、感じが違うね」
ヒソヒソと三人が話すが、その話を聞いているのかいないのか、全く何も言ってこない。同乗している女性刑事も又、ドラマとは違っていた。女子高生である彼女たちのイメージでは、バリバリ仕事をこなし、スタイル抜群、頭脳明晰を絵に描いたような女性だ。ところが、目の前にいるのは控えめな、どこにでもいるオバサンではないか。
警察署に着き、取調室へと案内された。この時ばかりは、ドラマと酷似している風景に驚かされた。小さな部屋に机と椅子があるだけの冷房のない部屋。思わず「エアコン、点けないんですか?」と聞いてしまったくらいだ。
萩原が笑いながら「取調室を快適にしたら、長居しちゃうからね」と言っていた。
さて、三人の目の前に数枚の写真が並べられた。
「この中に知っている人は、いるかな?」
さっきまでの優しい言葉つきに、ここからはどんな小さな事も聞き逃さないぞという緊張感が感じられる。部屋の隅には、オバサン刑事が穏やかな笑顔で座っていた。
瑛子が写真を見て叫んだ。
「これ! 荒木さん!」
京香と夏美も写真に目を向けた。
「うん、荒木だ。知ってるんだね」
「バイト先の副店長です」
さすがにデートの事は言えない。相手は警察だ。荒木に罪が掛かることよりも、自分たちに火の粉が飛んできたのではたまらない。
「他に知ってる人は?」
他の写真を見ても、知っている人はいなかった。三人は首を左右に振った。




