第二十三話 警察からの誘い(2)
「あ! 電話してたんだっけ」
瑛子がケイタイを持ち直すと、電話に向かって切り出した。
「三人で行っていいですか? 一人じゃ不安なんですが」
「あぁ、そうだね。随分仲がいいみたいだものね。その子たちの名前を教えてもらっていいかな」
「沢渡京香と榎本夏美です。京香は頭が良くて、てきぱきしてるけど口うるさい子で、夏美はぼんやりしてるけど、突っ込みどころがあって面白い子です」
「ちょっと! ぼんやりしてるって失礼だよ」
“ぼんやり”と聞いては黙っていられない夏美だ。しかも、面識の無い他人に言っているわけだから、余計に黙ってはいられない。
「だって、いつもぼんやりしてるじゃん」
「ぼんやりしてるんじゃなくて、常に考え事をしてるんだよ」
誰もこれには頷かない。
「何を考えてるって言うのよぉ。どうせ夏美のことだもん、食べること位しか考えてないでしょ」
当たっているだけに言葉に詰まる。それを聞いて京香が噴き出した。
「そういう瑛子だって!」
「何よー」
「男のことしか考えてないじゃない」
「失礼ね。男だけじゃないよ」
「へぇ。他に何があるのかねぇ」
全く信じていない言い方に、更にムキになる瑛子だ。
「それ以外に、ファッションとか、笑顔の作り方とか、首の傾け方でどう見えるかとか。これって結構大事なことだよ」
始めこそ、この喧嘩は負けないぞという意気込みが感じられる口調であったものの、徐々に自分の世界に入り込んでしまったらしく「首の傾け方」と言い出した辺りでは、しっかりと笑顔を作って、小首を傾けているのだから、なんとも笑ってしまう。
夏美がそんな瑛子を見て「やっぱり、男関連じゃん! 私はそんな邪道な考えは持たないよ。食道一筋ですからね」と豪語する。
「認めちゃったねー。夏美」
面白そうに京香が手を叩いた。
「ほうら、京香も言ってるじゃない。夏美は、食い気一筋なのよねぇ。少しは私を見習ったら」
そう言いながら胸を張る瑛子だ。
「そういう瑛子も自爆したねぇ。やっぱり、男一筋じゃない」
「違うよ。京香も分かってないなぁ。私は恋一筋なのよ」
と言いつつ、ケイタイが耳から離れてしまっている。ケイタイからは「もしもし、もしもし」と諦めることなく、呼び続けているのだ。それに気がついたのが京香だった。
「ねぇ、瑛子。ケイタイ!」
「え?」
手にしていたケイタイに目を向けると、おもむろに耳にあて「もしもし」と声を掛ける。
「やっと分かってくれたね。よかった。永遠に気がついてくれないんじゃないかと心配したよ」
皮肉なのだろうが、JKには届かない。
「そんなぁ、いつかは気がつきますよぉ」
それでは遅すぎるだろう。
「そうか、気がついてくれてよかった。それで、沢渡京香さんと榎本夏美さんだね。うん、ちょうどいい。その子たちにも聞きたいことがあるから、都合がいいな」
もう、これ以上三人に話しをさせる隙を与えないように、萩原は一息にしゃべった。しかし、そんな萩原の心中などお構いなしに、又しても三人の目が合ったかと思うと。
「それで、どうせならファミ……」
「じゃぁ、迎えに行くから警察で話を聞かせてくれるね」
最後まで言わせることなく、萩原が言葉を被せてきた。そして、沢渡家に到着する時間を告げると、電話が切れた。
瑛子はケイタイを置くと残念そうにこう言った。
「警察も貧乏らしいね」




