第二十三話 警察からの誘い(1)
「中央警察署の者ですが。南光瑛子さんのケイタイでしょうか?」
警察と聞き、目を合わせた。やましいことが無いとは言い切れないだけに、聞きたくない名前だ。それでいながら、ワクワクするような未来を予感させる名前でもある。
「もしもし、南光瑛子さんのケイタイではないですか?」
「……はい、そうです……」
電話の主は、穏やかに次の言葉を発した。
「荒木素也さんをご存知ですか?」
三人ともケイタイに耳を寄せていただけに、荒木の名前が聞こえると体を固くした。別段、いかがわしい所を歩いてはいけないという法律は無い。あの道がラブホ街であっても、公道だ。あの道を通っただけで捕まるくらいなら、道そのものを逮捕して欲しいものだ。しかし、あの日は結局四人で他の場所で遊んだだけなのだから、文句を言われる筋合いは無い。
京香が力強く頷いて見せた。
「はい、知ってます」
その返事を聞くと、警察官は自分の名前を明かした。
「中央警察署の萩原です」
萩原が言うには、バイト先の料理店で起こった事件は殺人事件で、殺されたのは山下瑠璃子さんである。瑠璃子さんと付き合っていたのが荒木。その荒木が山下殺害に関与しているらしく、荒木の身辺を調べていたら瑛子が浮上したというわけだ。しかも、荒木が瑛子に対してバイト生以上の感情を持っているらしいという情報も入手しているらしい。その情報の出所までは教えてくれなかったが、どうせオバサンたちが尾ひれ目ひれで、ゴシップさながらに話を大きくしたのだろう。大体、まだ何も進展していないのだから。
「ちょっと話を聞きたいんだけど、いいかな?」
「私は何もしてないませんよ」
「いや、してないとかじゃなくて、話を聞かせてくれるだけでいいんだけどね」
「どこでですか?」
「警察に来てくれると助かるんだけど、どうかな? 迎えに行くよ」
萩原と名乗る警察官は、とても好意的に話をしてくる。その話し声も瑛子の好みにぴったりだ。
「警察ですか……」
「嫌かな?」
「ちょっと待ってください」
瑛子が耳からケイタイを離して、京香と夏美を見た。その目は「どうする?」と聞いていた。
「瑛子はどうしたいのよ?」
瑛子の視線を受けて京香が口火を切った。
「私は三人で行くなら、行ってもいいけど」
さすがの瑛子も一人で警察に乗り込むのは恐いらしい。
「面白そうだから、いいよ。一緒に行っても」
瑛子の言葉を受けて、京香が同行することに同意すると、夏美が参加してきた。
「私も行ってもいいよ。でも、どうせなら美味しいもの付きがいいよね」
「じゃ、ファミレスとか?」
「そうだよね。話が聞きたいっていうんだから、こっちの情報を教えてくれってことでしょ。だったら、ファミレスでご馳走してもらってもいいんじゃないの?」
「ドラマだと、カツ丼とか出るじゃない? カツ丼の替わり?」
「それって、自供を促すときの警察の手口でしょ?」
「あれって、手口なの?」
「だって、田舎のお母さんが泣いてるぞって言いながら、カツ丼食べたりするじゃない?」
「そんなドラマって、今無いんじゃない?」
「よっぽど古いよね」
「しょうがないじゃん、おばあちゃん家で見たんだもん。おばあちゃん、好きなんだよね。そういうの」
「おばあちゃんなら、水戸黄門とかじゃないの?」
「【踊る大走査線】のDVD見てたよ」
「若いねぇ」
もう、誰が何を言っているのやら、次から次へと会話が飛ぶ。これ以上は待っていても意味がないと踏んだのか、ケイタイの向こうから「もしもし、もしもし」と声がした。




