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第二十話 偶然の出会い

 元気の良い声が、自分を呼んでいる。瑛子は驚いて振り返った。




「瑛子ぉ! 奇遇ねぇ、何でこんなところで会うかなぁ!」




 真面目に奇遇だとしたら、こんなところで会いたくは無いだろう。




「君たち、どうしてここに?」




 聞き覚えのある声に振り返った荒木は、バツの悪そうな、それでいてありえない状況に驚きを隠せないようだ。




「どうしてって……天の……天のお導きです」




 いつの間にキリスト教徒になったのだろう。京香が胸の前で十字を切ると、両手を組み合わせ、天を仰いだ。




「あ……そうなの。天のお導きなんだ。こんなところで……」




 何故ここで天のお導きなのか、京香の言う事に噴出しそうになるのを(こら)ながら、夏美は横を向いた。




「まぁ、女の子二人だから、悪いことをしに来たわけじゃないだろうけど」




 それはこっちのセリフだ。女子高生をこんないけない地帯へ連れ込んで、どういう気なんだろうね。いや、どういう気かなんて、聞く気も起きないのだが。

 それでも一応、うろたえる大人の反応を見るのも楽しいものだ。京香が、意地悪そうに荒木に聞いてみた。




「荒木さんこそ、瑛子と二人っきりでこんなところにいるなんて、どうなってるんですか?」


「えっ……それは、別に」




 すかさず夏美が突っ込む。




「まさかまさかの、歳の差カップル! いけない関係!?」


「え、だから」




 荒木が慌てている様子が面白い。やたらと額の汗を手の甲で拭っているが、はたして炎天下による汗なのか、冷や汗なのか。




「ああ、そうだ。この先に瑛子ちゃんが遊べそうなところがあると思ったから、そこへ連れて行こうと思ったんだよ。ここを通り抜けた方が近道だからね」




 やたらとまくしたてる荒木。




「へぇ、それって本当にあるんですか?」


「あったと思ったけどなぁ」




 とぼけているのが手に取るように分かる。ところが、荒木の横で瑛子が面白くなさそうに口をとがらしている。




「それって、どういうところですか? 私、子供の頃からこの界隈は探検しつくしてるけど、こっちに女子高生が楽しめそうな場所なんて無いですよ。この先にあるのは、キャバレーとか、スナックとか」


「そうなの? よく知ってるなぁ」




 荒木が驚いて見せるが、京香の追及の手が緩むことは無い。なぜなら、京香にとって今の荒木は格好のおもちゃだからだ。




「荒木さんは知らずにこっちに瑛子を連れてきたんですか? それって、おかしいですよね」


「いや、勘違いってことだよ」


「勘違いねぇ。本当に勘違い? 私たちに会わなければ勘違いついでに、いけないことする気だったんじゃないんですかぁ?」


「そんな事ないよ!」




 侵害だと言いたげに、語尾を強めてみたが、信憑性に掛ける。




「いい加減にしてよ! 荒木さんが、そんなことするはず無いじゃない! 荒木さんは本当に、この先に楽しいところがあると思ったのよ! あんたたちこそ、本当に偶然なわけ?!」




 とうとう、恋する女が爆弾を投下してきた。恋する女が男を守ろうとしているときは、いつも以上に頭の回転が良くなるから困るのだ。




「あぁそう、別に瑛子だから構わないけどさ。いけないことしたら、荒木さんが捕まるだけだから、荒木さんを助けてあげようとしたのに、そういう風に言うんだ。ふーん、そうなんだ。瑛子ってそうなんだ。自分で、好きな人が捕まるようなことするんだぁ。ふーん。まぁ、ついでに瑛子も捕まっちゃうかも知れないから、そうなれば一緒だしぃ。構わないかなぁ」




 ここまで言われて気がついたのか、瑛子の顔色が変わった。自分のせいで、荒木が辛い状況になることだけは避けなければならない。瑛子は涙を浮かべて荒木を見据えた。




「で・でも、恋愛は自由だから」




 泣きながら食い下がってくる瑛子に、うろたえる荒木。




「そりゃぁ、恋愛は自由だけどね。でも、所詮は高校生だから。お店の人が通報しないとも限らないよね」




 未成年との恋愛は確かに成立するだろう。しかし、そこに店側の通報がなければ……とは、良いところをつく。夏美が、京香をマジマジと見つめながら(さすが京香だ。よく、ポイントをついてくるなぁ)と頷いていた。




「そ……そんな……」




 さて、今のこの状況を他人が見たらどう思うのだろう。通行人が見当たらないので、聞くことも出来ないが。いや、通行人がいても聞くことは出来ないだろう。大変残念だ。




「瑛子ちゃん、泣かなくていいんだよ。ぼくは、そんなつもりは毛頭無かったんだからね。大丈夫だよ」




 うろたえる荒木をじっと見つめる京香の口から、突然の一言が飛び出した。

 それは、あまりにも唐突で、あまりにも自然な一言だった。




「ソフトクリームが食べたい」




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