第十七話 やっぱり殺人事件ですかね?(2)
ケイタイが鳴る。
自分の着メロでないことは分かっていながら、一瞬三人がケイタイを手にする。
「あ!」
ディスプレーを見て、声を上げたのは瑛子だった。
「誰から?」
「ちょっと……」
急いで席を立ち、外へと出て行った。
「珍しいねぇ」
夏美が瑛子の背中を眺めながら呟く。
「何が?」
「ケイタイが鳴ったからって、外へ出て行くって、礼儀正しいこと」
「瑛子がそんなに道徳心豊かだと思う?」
「思わない!」
「誰からだと思う?」
「聞かれたくない相手……」
しばしの沈黙。
「荒木さん!」
二人同時に声が出た。
「だよねぇ。てかさ、危なくないのかね」
夏美が新しいナプキンでこよりを作っては、横に並べている。手元が暇なせいか、こよりの本数が増えていく。
「なんで?」
京香は、不思議そうに聞いてきた。その不思議そうな顔は、夏美の言葉の意味よりも夏美の手元に向けられているのだが。
「だって、荒木さんオジサンだよ。普通に変じゃない! 瑛子はエロイけど、取りあえず高校生だからさ」
「……ヤバイ趣味のオジサン」
京香の視線が宙を泳ぐ。
「うん」
「……でも、どうすることも出来ないでしょ。人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られて即死するって言うじゃない」
「それ、違うよ。馬に蹴られて死んじまえだよ」
即死しても、死んでも良いのだが、確かに高校生なのだ。
「命令されちゃうんだぁ」
「いや、そういうことじゃないだろうけど」
と、話していると瑛子が戻ってきた。顔は暑さのせいなのか、電話のせいなのか真っ赤だ。
「どうしたの?」
分かっているんだぞという思いを表情に出さないようにしながら、京香が瑛子に目を向けた。
「どうもしないよ」
緩む頬を引き締めようと、頑張っているのだろうが、どうしても緩んでしまうらしく、やけにニヤついて見える。
「誰から?」
何とか白状させたくて、夏美も参加する。
「荒木さん」
案外あっさりと白状されて、夏美も京香も白けた感が隠せない。
「ケー番もゲットしたの?」
京香が「それは聞いていないぞ」と横目で瑛子を見た。
「うん、そうなのぉ。マジ、ラッキーって感じぃ」
「あぁあ、手が早いなぁ」
京香が大きくため息を吐いた。
「やだなぁ、そんなことないよ。メアド聞いたら、TEL番聞かなきゃ失礼じゃない」
瑛子が鼻の穴を膨らませながら、胸を張ってみせた。
それを見た京香と夏美は目を合わせて、ヤレヤレといった感じで話を進めた。
「で? 荒木さんは何だって?」
「しばらく店は開けられないって」
少し顔をしぼませて、肩を落として言う瑛子だ。
「泥棒が入ったのかな?」
京香がソファに身を預けた。
「泥棒ぐらいで、そんなにいつまでも店を開けないことってある?」
夏美は、隣に座っている京香に顔を向け、疑問を投げかけた。
「店を開けられないくらいの事件……」
京香がじっと一点を見つめていたかと思ったら、大きな声で叫んだ。
「殺人!」
周囲の視線が集まる。午後の客の少ない時間とはいえ、女子高生の声は良く通るのだ。
「シー! 何が殺人よ!」
瑛子が辺りに目をやりながら、小声で京香をなじる。
「だって、現場をそのままにしておかなくちゃならないわけでしょ。警察が来て、きっと今頃鑑識も来てるよ。それに刑事が来て!……」
京香の目がランランと輝き、脳内劇場の幕が上がった。
「ドラマの見すぎだよ」
今度は夏美と瑛子の目が合って、二人同時にため息を吐いた。
「これは殺人事件です、うん!」
一人ほくそ笑む京香だった。
瑛子がケイタイを眺めて、ニヤニヤと笑っている。
夏美がジュースのお替りを取りに立ち上がった。
三人の夏休みはまだまだ続く。




