第十五話 プールでラブラブ(2)
ひとしきり騒いで更衣室から出ると、男性陣はとっくにプールサイドで待っていた。しかも、しっかりとビーチシートを敷いて、場所を確保してあるのだ。なんと、健気な男性陣であることか。
「ごめーん、まったぁー」
こういうときの瑛子のしゃべりは、本当にムカつく。ムカつくほど、女っぽいのかもしれないが、実際夏美や京香は何度瑛子を袋叩きにしたいと思ったことだろう。
「大丈夫だよ。瑛子ちゃんのためなら、何時間でも待てるよ」
瑛子の彼氏が目を細めて言う。その目は、瑛子の水着姿に釘付けといったところだろう。
「えぇぇ。瑛子、うれしいぃ」
と、体をくねらせる。思わず、後ろから蹴りを入れたくなる京香と夏美だ。
さて、ここで又しても一悶着だ。瑛子が「彼と二人で泳いでくるから」と言い出したのだ。
「それじゃ合流する意味が無いよ」
とは言うものの、京香も彼氏と泳ぎに行ってしまった。
「あはぁ……二人とも楽しそうですなぁ」
夏美がペットボトルの水を口にしながら言うと、一馬が「そうだな」と頷く。
大学生の彼氏たちは、高校生の彼女に振り回されているように見えるが、
それが又楽しいのだろう。
「俺たちも泳いでくるか」
「そうだね、プールサイドは暑いしね」
瑛子と京香が若い恋人カップルなら、夏美と一馬は、どう見てもくたびれ果てた熟年カップルだ。
「そりゃ、しょうがないよ。付き合い長いもん」
「お前、誰に言ってるの?」
不思議そうに一馬が聞いてくる。
「え? あはは、作者」
さて、時間が流れて、休憩時間だ。プールというのは休憩時間がある。
何故か?
「あれはね、事故防止だよ」
瑛子の彼氏が優しく言う。
「事故防止? 休憩中に溺れている人がいないか見ているの?」
「それもあるけど、休まないと溺れるから、無理やり休憩を取らせてるんだよ」
「なるほろぉ」
(おお! ぶりっ子!)
瑛子と彼氏のやり取りを聞いていた夏美が、心で叫ぶ。さすがに口には出せないところだ。
京香が彼氏に言う。
「お腹空いた」
「あぁ、何か食べようか?」
「ソフトクリームがいいな」
(好きだねぇ、ソフトクリーム)
夏美が一馬に囁く。
(京香の原動力ってなんだと思う?)
(ソフトクリームじゃないか?)
(多分ね)
さすがに、毎回奢らされていると、嫌でもその辺は推察できる。
京香と彼氏がその場を離れると、瑛子が彼氏を引っ張ってどこかへと消えて行ってしまった。
「京香と瑛子が水着を買うって言ってたけど、今日の為だったんだね」
夏美がぼんやりと、腕を組んで歩いていく瑛子たちを眺めながら呟いた。
その姿は、華やかな蝶のように見える。京香の水着姿を後ろから眺め、ヒラヒラと揺れるスカートに、夏美でさぇため息が出る。スタイルの良い京香が着ていると、まるでモデルのようだ。
「京香って、ヒラヒラ好きだったんだぁ」
「彼氏専用のヒラヒラだろ」
「そうなのかなぁ」
「お前は今年もスクール水着か」
「悪い?」
「いや、別に」
「なら、言うな!」
夏美とて、京香や瑛子のように可愛い水着に興味がない訳ではないのだ。ただ、いざ買いに行こうと思うと面倒で、たったひと夏の為に、そこまで頑張れない自分がいるのだ。
夏美からは死角になるところで、京香と瑛子が彼氏たちを携えて、夏美たちを眺めていた。
じりじりと暑い太陽が容赦なく肌を焼くが、気にすることなく二人の様子を見続けているのだ。
「京香ちゃん、泳ごうよ」
「瑛子ちゃんも、泳ごうか」
さっきから、彼氏たちが二人に声を掛けるが「まだ!」という返事しか返ってこない。痺れを切らし「じゃぁ、タバコを吸ってくるからね」と二人が彼女のそばを離れても、気にしない。
小さな子供が瑛子のそばを駆け抜ける。手にはソフトクリーム。お約束のようにぶつかり、冷たいソフトクリームが瑛子の手にかかっても気にしなかった。
小さな子供が、ぶつかった拍子に落してしまったソフトクリームに大泣きして、母親が駆けつけてきても、気にしなかった。
更には、その母親に「ぼんやり立ってないで頂戴!」と逆切れされても、目は夏美に注がれていた。
京香もまた同じだった。事の一部始終を見逃すまいと、じっと夏美と一馬の姿から目を離さないのだ。
「あの二人、手を握るでもないし、肩を抱き寄せるでもないし」
「あ! 藤田のペットボトルが空になったよ」
「だから、何よ」
「そしたら、彼女が自分のをあげるとかするじゃん。間接キッスになるよ」
「えー……夏美に限ってありえないような……」
その通り一馬が、飲み干してしまったペットボトルを捨てに行くと、夏美が指差したその先には、色とりどりの品物が並べられている売店があった。
「ダメジャン!」
「でしょぅ。夏美だよぉ」
「私なら、すかさずチャンスをものにするけどなぁ」
「瑛子だからねぇ」
「どういう意味よ!」
「気にするな!」
という会話があっても、目は夏美と一馬を捉えて離さなかった。
そのうち夏美と一馬は、いつまでも帰って来ない瑛子と京香を待っていても仕方がないと、再度プールへと入ってしまった。
「あの二人ってさぁ、せっかく二人にしてあげてるのに、何も変わらないね」
「しかも、こっちはいつもよりも力入れて、彼氏とべたべたしてやってるのにさ」
「友達が彼氏とラブラブだったら、その気になるはずなんだけどね」
「あの二人、おかしいんじゃない?」
「一馬がもっと積極的に出ないからいけないんだよ」
「もしかして、一馬オカマだったりして」
「あの顔でニューハーフ?……いただけませんって」
背後からタバコの残り香を漂わせながら、彼氏たちが声を掛けてきた。
「京香ちゃーん」
「瑛子ちゃーん」
語尾にハートが付いているのが、気持ち悪いほど良く分かる。
京香と瑛子が同時に振り向くと
「うるさい!」
と何故か怒鳴られた彼氏たちだった。




