第十五話 プールでラブラブ(1)
夏休みも一週間が過ぎようとしている頃、瑛子と京香からメールが入った。内容は『プールに行こう!』というものだった。
さすがに、こう暑くては断る理由も無い。各自彼氏を連れてくるという事で、あっという間に話がまとまった。
メールを終えると、ふと思い浮かぶ事があった。それは、瑛子の彼氏が誰なのかということだった。
(大学生の彼氏? それとも副店長? さすがに、そりゃ無いよね)
その想像が事実になったら、さすがに笑ってはいられない。
(でも瑛子だから……いやいや、さすがにそれは……でも、面白いかも)
あっという間に話がまとまったように、あっという間にプール当日がやってきた。プールと言っても、高校生や大学生が暑さしのぎに行く場所だ、ホテルの高級プールというわけには行かない。
広大な敷地の中にいろいろな種類のプールが点在している。流れるプールにウォータースライダー、真四角で学校を思わせるプールや小さな子供が遊ぶだけのプール。見た目重視で、波だけを楽しむプールまである。スピーカーからは夏を思わせる軽快な音楽が流れ、監視員が面白くなさそうに、とりあえず周囲に目を向けている。点在している小さな店には、浮き輪やアイス・カキ氷、カップ麺にお菓子と購買意欲を煽るようなものが置かれている。
毎年、プールといえばここしかないのかと聞きたくなるほど、人が集まってくるのだ。
人の多さもさることながら、じりじりと照りつける太陽は、肌が焦げるのではないかと思われるほどだ。
そんな太陽の下、大学生という感じの二人の男子と、ちょっと背伸びをして大人の女性になろうとしている女子高生が二人はしゃいでいるのが分かる。
瑛子は、胸元の開いたTシャツ、短めのスカート。ピンクのラメ入りサンダル。顔にはバッチリ化粧を施している。コロコロと丸い体を肉感的というのなら、これもありだろう。
そして、京香は大きな麦藁帽子、胸にはフリルのあるワンピースを着て、ビニールのプールバックを肩から提げ、ビーチサンダルを履いている。遠めには、いたって真面目に見えるが、近づけばうっすらと化粧をし、目にはラメ入りのアイシャドー、耳にはピアス、手首にはプラスチックのカラフルブレスレッド、指輪は彼氏とお揃いらしい。
彼氏はといえば、お互いの彼女を挟んで両サイドに立っているが、お互い大した会話も無く無言の状態だ。
その様子を眺めながら、一馬と夏美がゆっくりと歩いてきた。
「瑛子、力入ってるね」
「京香だっていつもと違くねぇ?」
「二人とも凄いねぇ」
「オレの彼女はいつもと変わらない」
「そりゃ、お互い様だよ。私の彼氏もいつもと変わらないよ」
「そうだな」
「それにしても、瑛子は副店長が本命のはずなのに、やっぱり大学生の彼氏なんだね」
「さすがに、その副店長を連れては来れないだろ」
「うん……」
「不満か?」
「まぁ、面白みには欠けるかと」
「あの立ち姿だけでも、充分に面白いけどな」
じっくり見ようと目を凝らすと、女子二人が大きく手を上げて、手招きしている。
「早くおいでよぉ! 暑いんだからぁ!」
瑛子が大きな声で、無邪気そうに叫んでいる。その叫び声も、彼氏の前だからなのか、ピンク色に聞こえてならない。
「ちんたら歩くな! 走れー!」
彼氏の前でも口が悪い。ということは、大きなフリルを着ていても中身は変わらず、いつもの京香のようだ。
「どんなに頑張っても京香は京香だね」
「当たり前だろう。着てるもので変わったら怖いよ」
「瑛子は変わるよ」
「あれは、着てる物じゃなくて、そばにいる“男”で変わるんだ」
「なるほど! 納得!」
合流すると、更衣室へと男女が別れる。女子更衣室はたくさんの女性や子供であふれている。誰もが楽しげに、これからの水遊びに向けて着替えたり、浮き輪を膨らませたりしているのだ。室内全体に塩素の匂いが充満し、音楽が更に気分を高めていく。
三人は着ているものをその場で脱ぐと、ロッカーに洋服を突っ込んだ。誰一人として、たたんで入れようなどと、女性的な発想をするものがいない。さすがは似たもの同士と言うところだろう。
「ちょっと! なんで、ここまできてスクール水着なわけ?」
瑛子が夏美の水着姿を見て、素っ頓狂な声を出した。
「本当だぁ。しかも、胸にちゃんとネームがついてるって、どんだけ自分をアピールしたいのよ」
京香もおかしそうに、口元を手で隠した。
余計なお世話である。
夏美を笑った二人の水着はと言うと、今年の流行なのだろうか。瑛子はピンク地に小さな花柄のビキニで、スカートが付いている。京香は、ブルー地にやはり小花がプリントされたワンピースで、何枚にも分かれた布がスカートのようにあしらわれている。
さすがの夏美も、この二人とは歩きたくないとつくづく思うのだった。
「デートの時くらい、可愛い水着にすればいいのに」
彼に買ってもらったという水着をひけらかすように、瑛子が言った。そりゃぁ、年上の彼氏なら買ってもくれるだろうが、夏美の彼氏は同級生なのだ。ねだったところで、どうなるものでもないだろう。逆に買ってくれた方が、申し訳なくて遠慮したくなる。
「そうだよね。夏美の彼氏は高校生だものね。親も母だけだしね。私の持ってるのを貸してあげればよかったねぇ」
優しい言葉を掛けてくれる瑛子だが、瑛子の水着では大きすぎて使用不可だろう。
「うーん、瑛子の水着じゃ、ブカブカでしょう」
ちょっとだけ辛らつなことを言う京香だ。
「そうかもしれないけど、スク水よりはいいじゃない」
「でも、水に入ったら、ポロッなんて……怖いよー。単なる変態じゃん」
京香が笑いながら言うと、瑛子が「そこまで大きくは無いわよ」と返す。しかし、そう思っているのは瑛子だけで、京香と夏美は爆笑している。
「気にしてることを、そうやって笑うんだから!」
「でも、彼は今のままがいいんでしょ?」
夏美がフォローを入れてくる。瑛子にとって一番大事なのは、彼がどう思うかなのだから。
「そうね。私が痩せたら、彼は悲しむわ」
なんとも前向きである。




