第19話 プレゼント
プレゼントを買った翌日。
ながとは、朝からスマートフォンを何度も見ていた。
既読はつかない。
返信もない。
それでも、ながとは焦っていなかった。
「忙しいだけやろ」
そう思った。
いや。
そう思いたかった。
以前なら、返事がないだけでパチンコへ行っていた。
しかし今は違う。
仕事へ行く。
約束したことを守る。
借りた金も返す。
自分は変わっている。
だから、さくらもいつか分かってくれる。
そう信じていた。
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昼休み。
ながとは、もう一度メッセージを送ろうとして、指を止めた。
――プレゼントあるで。
入力する。
そして消す。
――渡したいものある。
また消す。
結局、何も送らなかった。
「焦ったらあかん」
けんじに言われた言葉を思い出す。
「さくらちゃんが連絡してくるまで待て」
確かに、その通りかもしれない。
だから待つ。
ただし、ながとの中では、
「待つ=いつか会える」
だった。
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その日の夕方。
さくらが会社を出ると、あやから電話があった。
「今から帰る?」
「うん」
「駅まで一緒に行こうか?」
「……お願い」
さくらは、一人で帰ることが怖くなっていた。
以前なら何も考えず歩いていた道。
今では、後ろから男性が歩いてくるだけで振り返ってしまう。
角を曲がる。
後ろを見る。
誰もいない。
それでも安心できない。
「あの人じゃないよね……」
「大丈夫」
あやが答える。
「今日は私が一緒にいるから」
駅へ向かう途中。
さくらのスマートフォンが震えた。
知らない番号ではない。
以前、ながとから連絡が来ていた番号だった。
画面を見た瞬間、
さくらの足が止まった。
「……来た」
「出なくていい」
「うん」
着信は切れた。
しかし、すぐにまた鳴った。
二回。
三回。
四回。
さくらは電源を切った。
「……なんで」
声が震える。
「私、もう連絡しないでって言ったのに」
あやは何も言えなかった。
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その頃。
ながとはスマートフォンを握っていた。
「出えへんな」
何度目かの電話だった。
だが、本人には悪気がなかった。
「ちょっと渡すだけやのに」
プレゼントを渡す。
それだけ。
それが何故いけないのか。
分からなかった。
「直接会って話したら、分かってくれるって」
そう考えていた。
そして翌日。
仕事帰りのさくらが駅を出たところで――
「さくら」
声がした。
身体が固まる。
振り向く。
そこに、ながとが立っていた。
手には小さな紙袋。
「……ながとさん」
さくらの顔から血の気が引いた。
「久しぶり」
ながとは笑った。
「これ、渡したかってん」
紙袋を差し出す。
さくらは受け取らなかった。
「いりません」
「え?」
「受け取れません」
「いや、たいしたもんちゃうって」
「そういう問題じゃありません」
ながとの笑顔が少しずつ消えていく。
「なんで?」
「……」
「俺、何か悪いことした?」
さくらは答えられなかった。
怖かった。
怒らせたくなかった。
だから、言葉を選んだ。
「もう、こういうことはやめてください」
「こういうことって?」
「待ち伏せしたり……電話したり……プレゼントを渡したり」
「待ち伏せちゃうやん」
「でも……」
「たまたまや」
嘘だった。
ながとは、さくらがこの時間に駅を通ることを知っていた。
だから来た。
しかし本人の中では、
「会いに来ただけ」
だった。
「俺、さくらのこと好きやから」
「……」
「好きな人にプレゼント渡すくらい、普通やろ?」
さくらは俯いた。
そして、ようやく言った。
「私は、ながとさんのこと好きじゃありません」
何度目かの言葉だった。
しかし――
ながとは、その言葉を聞きながらも、
「今は」
という言葉を勝手に付け足していた。
だから、傷ついた。
けれど、諦めなかった。
「……分かった」
ながとは紙袋を下ろした。
「今日は渡さん」
さくらが少しだけ安心した。
だが。
「でも、いつか受け取ってな」
その言葉で、
また胸が苦しくなった。
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帰宅したさくらは、玄関の鍵を閉めた。
一つ。
二つ。
チェーンをかける。
そして、その場に座り込んだ。
スマートフォンを見る。
あやからメッセージが来ている。
『大丈夫?』
さくらはしばらく画面を見つめた。
それから短く返信した。
『もう、無理かもしれない』
その夜。
ながとは部屋でプレゼントを眺めていた。
「今日は失敗したな」
そう思った。
けれど、捨てる気にはなれなかった。
「次は、ちゃんと渡そう」
そして、笑った。
「そのうち分かってくれるって」
ながとにとってプレゼントは、
愛情の証だった。
さくらにとっては、
断っても終わらない関係の証だった。
二人が同じものを見ているのに、
そこに映っているものだけが、
まったく違っていた。




