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『俺が本気で好きになった女は、俺を好きにならなかった』  作者: こうた
第一章 出会い――金から始まった関係――

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第17話 さくらの友達



「……怖い」


電話の向こうで、さくらがそう呟いた。


あやは何も言わなかった。


さくらが泣いているわけではない。


怒っているわけでもない。


ただ――


声が小さかった。


「私、もう終わったと思ってた」


「うん」


「お金も返したし……好きじゃないって言ったし……もう連絡しないでって言った」


「うん」


「なのに……」


さくらは言葉を止めた。


「どうして、まだ私のことを追いかけるんだろう」


あやにも答えられなかった。


---


その頃。


ながとは、ひろきから聞いた話を嬉しそうに話していた。


「さくらの友達が、俺のこと知ったらしい」


たけしが笑う。


「ええやん」


「俺が変わったって、伝わるやろ」


「そら伝わるって」


ながとは満足そうだった。


「俺、悪いことしてへんし」


その一言に、けんじが顔を上げた。


「……ながと」


「なんや」


「お前、本当にそう思ってるんか?」


「何が?」


「悪いことしてへんって」


ながとは不思議そうな顔をした。


「してへんやろ」


「さくらが怖いって言ってる」


「それは分かってる」


「連絡するなとも言われてる」


「今は連絡してへん」


「でも、友達を使って近づこうとしてる」


「近づこうとしてるんやない」


ながとは少し苛立った。


「俺のことを分かってもらおうとしてるだけや」


「それを、さくらが望んでると思うか?」


「……」


ながとは黙った。


だが、すぐに答えた。


「望んでるかどうかは、分からん」


「なら、やめろ」


「でも、俺が何もせんかったら、ずっと誤解されたままやん」


けんじはため息をついた。


「お前……」


言葉が続かなかった。


---


ながとは本当に、自分が悪いことをしているとは思っていなかった。


それが一番怖かった。


自分の中では、


金を返してもらった。


一ヶ月待った。


痩せた。


仕事もしている。


パチンコも減らした。


だから、


「俺はもう変わった」


そう思っている。


さくらに会いたい。


話したい。


気持ちを伝えたい。


それだけ。


暴力を振るうわけでもない。


怒鳴りつけるわけでもない。


だから――


「何が悪いんや?」


本気でそう思っていた。


---


数日後。


さくらは会社の昼休みに、あやから電話を受けた。


「ながとさん、最近痩せたらしいよ」


「……そうなんだ」


「仕事も真面目に行ってるって」


「……」


「友達から聞いた」


さくらはしばらく黙った。


そして言った。


「それって……」


「うん」


「私のためなのかな」


あやは答えなかった。


さくら自身も分かっていた。


たぶん、そうだ。


それが怖かった。


もし本当に自分のためなら――


「ありがとう」


と言えるかもしれない。


でも、


自分に好きになってもらうための努力なら。


それは、さくらにとってプレッシャーだった。


---


その日の帰り。


さくらは一人で駅へ向かった。


後ろから足音が聞こえる。


振り返る。


知らない男だった。


それだけなのに、心臓が跳ねた。


早足になる。


駅に入る。


人の多い場所へ行く。


スマホを見る。


あやからメッセージが来ている。


『大丈夫?』


さくらは、


『うん』


と返した。


でも本当は、


大丈夫ではなかった。


---


一方、ながとは自宅で写真を見ていた。


昔の自分。


太っている。


髪も長い。


服も適当。


「……ひどいな」


そして今の自分。


少し痩せた。


服も変えた。


髪も整えた。


「俺、こんなに変わったんや」


その瞬間、


スマホに一つの通知が入った。


ひろきからだった。


『さくらの友達、今度話せるかもしれん』


ながとの目が輝いた。


「よし」


思わず声が出る。


「これで全部説明できる」


何を説明するのか。


自分がどれだけ努力したか。


どれだけ本気だったか。


どれだけ好きなのか。


全部話せば、きっと分かってくれる。


そして、その話がさくらに伝われば――


きっと。


---


だが、さくらの友達からすれば違った。


あやは、ながとの話を聞いた。


「ながとさん、私と話したいって?」


ひろきが言った。


「そうみたい」


「なんで?」


「さくらのこと」


あやの表情が変わった。


「……私は話したくない」


「でも――」


「ごめん」


あやははっきり言った。


「さくらが嫌がってるから」


ひろきは黙った。


「あの人がどれだけ変わったとか、どれだけ好きだとか、私は知らない」


あやは続けた。


「でも、さくらが怖いって言ってることだけは知ってる」


---


その夜。


ながとは、ひろきから断られたことを聞いた。


「なんでや」


「友達が嫌やって」


「俺、何もしてへんのに」


「まあ……そうやな」


「なんで、そこまで警戒されるんや」


ながとの声に苛立ちが混じった。


「俺はさくらを傷つけたいんちゃう」


「分かってる」


「じゃあ何でや!」


声が大きくなる。


「俺はただ、好きなだけやろ!」


電話の向こうで、ひろきが黙る。


ながとは息を吐いた。


「……俺、そんな怖い男なんかな」


その言葉だけは、本当に寂しそうだった。


---


電話を切った後。


ながとは一人で考えた。


自分は何が悪かったのか。


金を借りたことか。


何度も会おうとしたことか。


家に行こうとしたことか。


待っていたことか。


何度も連絡したことか。


友達に頼ったことか。


一つずつ考える。


そして最後に――


「……でも、全部好きやったからや」


そう結論づけた。


そこに、


「好きだから」という言葉を使えば、

自分の行動を正当化できてしまう危うさ


があった。


---


翌日。


けんじがながとを呼び出した。


「もう、やめろ」


「何を?」


「さくらの友達に近づくのも」


「……」


「会社に行くのも」


「行ってへん」


「連絡するのも」


「してへん」


「なら、このまま終われ」


ながとは黙った。


そして、静かに言った。


「……俺には無理や」


けんじが目を閉じる。


「ながと」


「俺、初めて本気で好きになったんや」


「……」


「今まで、女なんかどうでもよかった」


「……」


「でも、さくらだけは違う」


ながとは拳を握った。


「だから、簡単に諦められへん」


けんじは、その言葉を聞いて確信した。


ながとは今、


「好きな女性を追いかけている男」


ではない。


「自分の中で作った恋の結末を、現実にしようとしている男」


になりつつある。


そして――


本人だけが、その違いに気づいていなかった。

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