第16話 作戦会議
「で、どうするん?」
たけしが聞いた。
テーブルの上には、コンビニで買った弁当と缶コーヒー。
いつものメンバーが集まっていた。
ながとは、スマホを机の上に置いたまま黙っている。
さくらから返信はない。
それでも、ながとの表情には以前ほどの焦りがなかった。
「俺、もう一回だけ会って話したい」
「そらそうやろ」
まさるが言った。
「でも、どうやって?」
ながとは答えなかった。
「普通に連絡したら?」
ひろきが言う。
「返事ない」
「じゃあ、直接行けばええやん」
その言葉に、けんじが顔を上げた。
「それはやめろ」
「なんで?」
「さくらは、もう連絡するなって言ってる」
「でも一ヶ月待ったんやろ?」
「待ったから何や」
「一ヶ月我慢したんやから、一回くらい話しても――」
「それがあかんねん」
けんじの声が強くなる。
「ながとは、もう自分の都合で考えるのやめろ」
ながとの眉が動いた。
「俺は自分勝手にしてへん」
「してる」
「してへん」
「してる」
二人の間に沈黙が落ちた。
---
だいすけが笑った。
「まあまあ、恋愛なんてそんなもんやろ」
「お前は黙っとけ」
けんじが言う。
だいすけは肩をすくめた。
「でも、ながとがここまで変わったのは事実やろ?」
「それはそうや」
たけしも頷く。
「六キロやろ?」
「六キロ」
「パチンコも減った」
「仕事も休まんようになった」
「服も変えた」
ながとは少し照れた。
「……まあな」
「そこまでやったんやったら、一回くらい見てもらってもええんちゃう?」
その言葉に、ながとの目が輝いた。
「そうやろ?」
けんじだけが黙っていた。
---
「作戦立てようや」
まさるが言った。
「作戦?」
「さくらにもう一回振り向いてもらう作戦」
テーブルを囲む男たちが、少しずつ盛り上がっていく。
「まず痩せたことを見せる」
「仕事もちゃんとしてるって伝える」
「プレゼントとかどうや?」
「飯に誘う」
「いや、二人きりは怖がるやろ」
「じゃあ、みんなで会えばええ」
次々と案が出てくる。
ながとは、その一つ一つを真剣に聞いていた。
そして思った。
まだ、終わっていない。
自分が変わったことを、さくらは知らない。
なら――
知ってもらえばいい。
そう考えた。
---
「俺、さくらの友達知ってるで」
ひろきが言った。
ながとが顔を上げる。
「ほんま?」
「前に駅で見たことある」
「話したことあるん?」
「ちょっとだけ」
「なら、頼めへん?」
けんじが立ち上がった。
「やめろ」
「何でや」
「本人が断ってるんやぞ」
「本人に直接何かするわけちゃう」
「友達を使って説得するのも同じや」
「でも――」
ながとが口を挟んだ。
「説得やない」
「じゃあ何や」
「俺のことを知ってもらうだけや」
けんじはながとを見る。
「……それが、さくらにとって本当に必要なんか?」
ながとは答えられなかった。
---
その日の夜。
ながとは自宅の鏡の前に立った。
体重計に乗る。
以前より六キロ軽い。
髪も整っている。
新しい服。
少しだけ自信がついた。
「……これなら」
鏡の中の自分を見る。
「さくらも、ちょっとは……」
そこまで言って、口を閉じた。
「……まだ分からんけどな」
それでも笑った。
---
翌日。
ひろきから連絡が来た。
『さくらの友達、あやって子なら話せるかもしれん』
ながとの胸が高鳴る。
『ほんま?』
『たぶん』
『頼むわ』
『任せとけ』
スマホを握りながら、ながとは考えた。
さくら本人に直接言うよりいい。
友達から伝えてもらえばいい。
俺が変わったこと。
俺が本気なこと。
俺がさくらを大切にしたいこと。
全部伝われば――
きっと分かってくれる。
そう思った。
---
しかし。
ひろきが連絡を取ろうとしていた相手は、
さくらの友達ではなかった。
SNSで偶然見つけた、さくらの知り合いだった。
そして、その話は――
本人の知らないところで、
少しずつ広がっていく。
---
その日の夜。
さくらのスマホが鳴った。
「あや?」
『うん』
「どうしたの?」
『……ながとさんのことなんだけど』
さくらの顔が固まった。
「……何?」
『最近、友達があなたのことを聞かれたって』
「え……」
『ながとさん、また何かしてる?』
さくらは何も言えなかった。
胸の奥が冷たくなる。
「……私、何もしてないよ」
『分かってる』
「もう終わったと思ってた」
『私もそう思ってた』
さくらはスマホを握った。
そして、小さな声で言った。
「……怖い」
---
一方。
何も知らないながとは、
「これで、さくらに気持ちが伝わる」
と信じていた。
自分は本気だ。
だから周りにも応援してほしい。
そう思っていた。
だが――
恋愛には、
本人の知らないところで人を動かすほど、
相手を追い詰めてしまうことがある。
ながとの恋は、
二人だけのものではなくなり始めていた。
そして次に動くのは――
さくらの友達だった。




