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『俺が本気で好きになった女は、俺を好きにならなかった』  作者: こうた
第一章 出会い――金から始まった関係――

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第15話 まだ、好きになってもらえる

一週間。


さくらから返信はなかった。


ながとは、それでもスマホを何度も確認した。


朝。


昼。


仕事が終わった後。


寝る前。


通知が来るたびに画面を見る。


けれど――


さくらではない。


「……まだか」


そう呟いて、スマホを置く。


以前なら、ここで何度もメッセージを送っていた。


「なんで返事ないん?」


「怒ってる?」


「俺、何かした?」


そうやって追いかけていた。


でも今は違う。


一ヶ月我慢した。


だから、もう少し待てる。


そう思っていた。


---


ながとは、少しずつ変わっていた。


体重は六キロ落ちた。


仕事にも以前より真面目に行くようになった。


給料が入っても、パチンコに使う金額を決めるようになった。


完全にやめたわけではない。


それでも、以前のように人から金を借りてまで打つことはなくなった。


借りることが当たり前だった自分にとっては、大きな変化だった。


「俺、変わったよな」


仕事仲間にそう言うこともあった。


「何が?」


「いや……何でもない」


本当は言いたかった。


さくらのために変わっている。


でも、言わなかった。


自分でも少しだけ、


それを言うのが恥ずかしくなっていた。


---


ある日の夜。


ながとは、まさひこに電話をした。


「俺、六キロ痩せた」


「聞いた」


「仕事も休まんようになった」


「それも聞いた」


「パチンコも減らした」


「それはえらいやん」


ながとは少し笑った。


「やろ?」


「うん」


「これだけ変わったらさ」


「うん」


「……さくらも、ちょっとは見直してくれると思わへん?」


まさひこは答えなかった。


「なあ?」


「ながと」


「何や」


「それ、さくらに見せるためにやってるんか?」


「……」


「それとも、自分の人生を変えるためにやってるんか?」


ながとは黙った。


「両方や」


しばらくして答えた。


「最初はさくらのためやったかもしれん」


「うん」


「でも今は、自分のためでもある」


まさひこは少し安心したようだった。


「それならええ」


「ただな」


「ん?」


「さくらが振り向かなくても続けろよ」


ながとは黙った。


「……分かった」


そう答えた。


けれど。


本当に続けられるかどうかは――


まだ分からなかった。


---


その週末。


ながとは服を買った。


鏡の前で何度も確認する。


以前より顔が少し細くなった。


腹も少し引っ込んだ。


髪も短くした。


「……普通やな」


自分で言って笑う。


以前の自分とは違う。


少なくとも、


「俺は何もしてない」


とは言えなくなった。


そして、スマホを見る。


さくらの名前。


指が止まる。


一度、深呼吸する。


「……もう一回だけ」


メッセージを開いた。


だが――


そこで、以前のさくらの言葉を思い出した。


「もう連絡しないでください」


ながとは画面を閉じた。


送らなかった。


それだけは守った。


---


数日後。


ながとは仕事帰りにコンビニに寄った。


レジに並んでいると、後ろから声が聞こえた。


「ながと?」


振り返る。


昔からの知り合いだった。


「お前、痩せたな」


「そう?」


「何したん?」


「ちょっとな」


「彼女でもできた?」


ながとは一瞬、黙った。


「……まだ」


「まだ?」


「好きな人がおる」


そう答えた。


知り合いが笑う。


「へえ。お前が?」


「俺だって好きになるわ」


「どんな子?」


ながとは少し嬉しそうに話した。


小さい。


可愛い。


優しい。


真面目。


仕事もちゃんとしている。


「で、付き合ってるん?」


「いや」


「告白したん?」


「……した」


「振られた?」


ながとは黙った。


「まあ……今はな」


知り合いは苦笑した。


「今は?」


「俺が変わったら、分からんやろ」


そう言って、ながとは笑った。


自分でも、その言葉が自然に出てくることに驚いた。


「今は」


そう言えば、未来が残る。


「今は好きじゃない」


なら――


「いつか好きになる」


可能性がある。


ながとは、その小さな隙間に希望を作っていた。


---


その夜。


さくらは、あやの部屋にいた。


「また来た」


さくらがスマホを見せる。


通知ではない。


ながとからの新しい連絡だった。


短い文章。


「もう連絡せんから安心して」


あやが画面を見る。


「これ、どうする?」


「……返さない」


「うん」


さくらはスマホを伏せた。


少しして、


「これで終わるかな」


と呟いた。


あやは答えなかった。


さくらも分かっていた。


一度「終わり」と伝えた。


それでもまた連絡が来た。


だから、


「もう連絡しない」


という言葉だけでは、安心できない。


---


一方。


ながとはベッドに横になっていた。


今日は連絡した。


でも、返事は求めなかった。


「俺、ちゃんと待てるようになった」


そう思った。


昔の自分なら、すぐに返事を求めていた。


今は待てる。


だから――


自分は成長している。


そう思った。


目を閉じる。


頭の中に、さくらの笑顔が浮かぶ。


初めて名前を呼んでくれた時。


一緒にご飯を食べた時。


笑ってくれた時。


「……また、あの顔見たいな」


ながとは呟いた。


そして、もう一度だけ未来を想像した。


痩せた自分。


真面目に働いている自分。


さくらの前に立つ。


「俺、変わったで」


さくらが自分を見る。


そして――


「ながとさん」


また名前を呼んでくれる。


その未来を想像すると、胸が温かくなった。


---


だが。


現実のさくらは――


ながとを好きになるために時間を使っているのではなかった。


ながとを忘れるために時間を使っていた。


二人は同じ一ヶ月を過ごしていた。


ながとは、


「好きになってもらうための一ヶ月」


として。


さくらは、


「忘れるための一ヶ月」


として。


同じ時間を過ごしているのに、


向いている方向は正反対だった。


そして、ながとはまだ知らない。


この先、自分の努力が――


さくらにとっては、


「嬉しい」


ではなく、


「だからこそ、余計に断りづらい」


ものになってしまうことを。


そしてその時。


ながとは、初めて本当の意味で、


「恋をすること」と「相手を自分のものにしたいと思うこと」


の違いを突きつけられることになる。

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