第10話 「どうしても」
1
今日も一日、オフィスでの仕事だった。
このところ、そんな日が続いている。
今日は、頭を使いたくない。
レジストの解像度を競合他社と比較した資料を作っている。
地味だし、なかなか進まない。
けれど、これは顧客に提案するときの大きな武器になる。
そう思えば、手を抜くわけにもいかなくて、なおさら厄介だった。
しかも、これが終われば次は顧客向けの提案書だ。
コストダウンやプロセス短縮。
その根拠になるデータを織り交ぜながら、説得力のある形にまとめなければならない。
ふと時計を見ると、もう十四時だった。
朝からずっと資料作成に追われていて、さすがにうんざりしてくる。
それでもメールはひっきりなしに届いて、息をつく間もない。
気分転換に、コーヒーでも買おうと席を立った。
休憩室の自動販売機にあるのは、紙コップ式のコーヒーだ。
特別うまいわけじゃない。
それでも、ないよりはましだった。
紙コップを手にしたまま、ぼんやり窓の外を眺める。
そうしているうちに、先週のことを思い出した。
楓の手を取ったときのこと。
人混みを抜けても、俺はその手を離さなかった。
いや、離したくなかった。
嫌かと聞いたとき、楓は嫌じゃないと言った。
あれは成り行きなんかじゃない。
俺が楓を想っているように、楓もまた、俺をただの友達とは思っていない。
そうだと思っている。
それでも、関係をはっきりさせるような決定的な言葉は、まだどちらも口にしていない。
不思議と焦りはなかった。
むしろ以前より、気持ちは落ち着いている。
楓が、ちゃんと俺を見てくれている。
それがわかるからだ。
俺はポケットからスマートフォンを取り出して、楓とのトーク画面を開いた。
〈金曜、何時に終わる?〉
KAEDE
〈たぶん、十八時半くらい〉
〈飯、食いに行こう〉
KAEDE
〈行く〉
もう今さら、会う理由を取ってつけるつもりはなかった。
会いたいから誘う。
それだけだ。
2
やっと金曜日だった。
今日は朝から顧客先へ資料を持って出て、そのまま外回りだった。
どう考えても十七時では帰れないとわかっていたから、あらかじめ直帰にしてある。
会社に戻らなくていいと思うだけで、気分はだいぶ違った。
いつものように東京駅で楓と待ち合わせて、そのまま居酒屋に入った。
楓は、かしこまった店より、こういう店のほうが好きだった。
人の声が重なって、店員が忙しなく動いていて、あちこちでグラスが鳴る。
そんな騒がしさごと、楽しいのだと前に言っていた。
金曜日の店内は、いつも以上に混んでいた。
笑い声と話し声が途切れなく飛び交っていて、頭上では有線放送の音楽が半端な音量で流れている。
聞こえるような聞こえないような音に、隣の席の乾杯の声が重なって、店の中はずっとにぎやかだった。
「やっぱり金曜ってすごいな」
そう言うと、向かいに座る楓が楽しそうに笑った。
「いいじゃない。この感じ好き」
「楓らしい」
「静かすぎると、逆に落ち着かない」
そう言ってグラスを持つ楓は、今日も機嫌がよさそうだった。
頬がやわらかくゆるんでいて、その顔を見ているだけで、仕事の疲れが抜けていく気がする。
楓はもう、こうして俺の向かいにいる。
手を伸ばせば届く場所で、楽しそうに笑っている。
今週がどれだけ長くても、こうして会えればそれでいいと思えた。
店を出たところで、俺は腕時計に目をやった。
まだ二十一時前だった。
このまま帰すには、少し早い気がした。
隣を歩く楓に目を向ける。
「帰る?」
そう聞くと、楓はすぐに返さず、こっちを見た。
「冬吾は?」
「俺はまだいい」
すると楓は、やわらかく笑った。
「じゃあ、私も」
その返事に、思わず口元がゆるむ。
「軽く飲めるとこでいい?」
「うん」
駅の明かりが夜道に滲んで、人通りはまだ多い。
金曜の夜らしい浮ついた空気の中を、俺たちは並んで歩いた。
「この近くに、昔、先輩に連れてってもらったバーがあるんだけど」
そう言うと、楓が興味を示すように顔を上げた。
「バー?」
「そう。そんなに堅い店じゃないし、静かに飲める」
「いいね。楽しみ」
その一言だけで、もう誘ってよかったと思う。
居酒屋を出ても、まだ一緒にいられる。
思っていた以上にうれしかった。
3
バーは思ったより空いていた。
こういう店はもっと遅い時間から客が増えるんだろう。
俺にはそのくらいがちょうどよかった。
二軒目なら、少し静かなほうが落ち着く。
楓は大きめのグラスに入った赤いカクテルを頼んでいた。
照明を受けて、液面がゆっくり揺れる。
「それ、甘いやつじゃない?」
「いいの。今日は甘いの飲みたい」
「そうか」
楓はストローをくるりと回してから、ふと思い出したように俺を見た。
「ねぇ、冬吾は出張多いんでしょ?」
「時期によるけどな。続くときは続く」
「この前も行ってたよね」
「ああ。移動して、打ち合わせして、帰って終わり。べつに大した話もない」
「でも、新幹線乗るとちょっと特別感あるよね?」
「それはわかる」
そんな、どうでもいいような話をしているだけなのに、いつもと同じに心地よかった。
話の内容よりも、楓と話していることが楽しかった。
そのとき、入り口のドアが開いて、カランとドアベルが鳴った。
俺も楓も、同時にそっちを振り向く。
「え」
楓が驚いたように声を漏らしたあと、目を見開く。
「坂上くん?」
俺は、入ってきた男を見た。
同年代くらいの、スーツ姿の男だった。
「……和倉。偶然だな」
仕事関係の知り合いらしい。
そう思っていると、楓がすぐに口を開いた。
「なにしてるの?」
男は軽く笑って、構えた様子もなく答えた。
「この近くで、足立さんと飲んでた」
「ああ、戦略の……」
センリャク?
「この店、よく来るの?」
楓がそう聞くと、坂上は首を横に振った。
「いや。もう一杯くらい飲みたいなと思って」
「ひとりなら、一緒に飲む?」
一緒に。
その言葉に、わずかに引っかかった。
「冬吾、いい?」
もう誘ったあとで聞くんだな、と思いながら、俺は表情だけは崩さずに答えた。
「俺は、いいけど」
本音を言えば、このままふたりで飲んでいたかった。
けれど、ここでそれを顔に出すほど子どもでもない。
楓は俺と坂上を交互に見て、取り持つように言った。
「冬吾。会社の同僚の坂上くん」
「坂上くん、こっちは織田さん。織田冬吾」
坂上はまだ席にもついていなかった。
だから俺も立ち上がって、内ポケットに手を入れる。
すると坂上も同じように、内ポケットから名刺を取り出した。
「坂上です。初めまして」
顧客相手のときみたいに、きれいな所作で両手を添えて差し出してくる。
ずいぶん手慣れている。
俺も同じように名刺を返した。
受け取った名刺に目を落とす。
「月城……楓と同じ会社、でしたね。」
「ええ。織田さんは東和マテリアルですか。シリコンウエハ?」
「あー、いや。レジストですね」
そこで、さっきの言葉を思い出す。
センリャク。
なるほどと思って、もう一度名刺を見る。
事業戦略部。
さっき楓が言いかけたのは、それかと思った。
4
楓を真ん中にして、三人で飲むことになった。
「坂上くんとは同期なの」
楓が、俺にもわかるように説明する。
すると坂上が、横から自然な調子で言葉を継いだ。
「入社したときからだから、もう七年だよな」
そう言って、俺ではなく楓を見る。
「七年ですか。長いですね」
口ではそう返しながら、内心ではその時間の長さが引っかかった。
七年。
俺が楓と出会ってから、まだ二か月にもならない。
その差を、わざわざ目の前に突きつけられたような気がした。
坂上は何でもないことのように、グラスを手にしたまま続ける。
「まぁ、腐れ縁みたいなもので。仕事帰りにも、よくふたりで飲みに行ったりして。な?」
最後の一言は、確かに楓へ向けられていた。
ふたりで。
「そうなんですね」
それしか言えなかった。
同期で、七年で、仕事帰りによくふたりで飲む。
俺は、この男の存在を今日初めて知った。
楓のことを少しずつ知ってきたつもりでいたのに、まだ自分の知らない時間が、そのままの形で目の前に座っている気がした。
仕事の話になってしまえば、坂上とは案外普通に話せた。
事業戦略の立場から見る数字の置き方だとか、現場に降りてくる頃には話がずれていることだとか、管理職が現実を知らないまま理想だけ言ってくる面倒くささだとか。
会社は違っても、規模が大きければ似たようなことは起きるらしい。
話していて、頭の回転が速い男だと思った。
返しも早いし、言葉の選び方にも無駄がない。
正直、一瞬だけ思った。
こいつ、普通に感じいいな、と。
「だから結局、上はスピード感って言うだけなんだよな」
坂上が苦笑しながら言うと、楓がすぐ横から口を挟んだ。
「坂上くん、それ前にも言ってた」
「言ったっけ?」
「言った。去年」
「よく覚えてんな」
そのやり取りに、楓も坂上も自然に笑う。
何でもない会話だった。
それだけなのに、その間にある時間の長さが、やけにはっきり見えた気がした。
七年。
説明なんていらないんだろうと思う。
こういうふうに、前にも聞いた、去年も言ってたと、当たり前みたいに言える距離。
積み重ねてきた時間が、言葉の端々にそのまま出る。
別に、坂上に腹が立つ理由なんてなかった。
感じの悪い男じゃない。
むしろ、仕事の話をしているぶんには話しやすい部類だ。
それでも、面白くなかった。
嫌なのは坂上本人じゃない。
俺の知らない楓を、この男がいくつも知っていることだった。
七年分の記憶の中にいる楓を、俺はほとんど知らない。
楓が笑うたびに、胸の奥がざらついた。
「冬吾、あの時のパスタだけど」
楓がそう言った瞬間、何のことかすぐにわかった。
先日、大蔵屋のイタリアフェアで買ったパスタのことだ。
半分に分けたから、今度持っていくと、そんな話をしていた。
そのとき、坂上の目がほんの一瞬だけ動いた気がした。
気のせいかもしれない。
けれど、聞き流したにしては妙な間があった。
「あのポルチーニ、本当に高かったよね」
楓が思い出したように言う。
「だから、あれは濃い椎茸だって」
そう返すと、楓が声を立てて笑った。
坂上には、何の話かわからないはずだった。
それでも楓は少し酔いが回ったのか、いつもよりよくしゃべる。
「フィレンツェでね――」
そこまで言ったところで、坂上が初めて反応した。
「ふたりでイタリアに行ったの?」
楓はすぐに首を振る。
「違う違う。飛行機で隣だったの」
そのやり取りを聞きながら、俺は坂上を見た。
ああ、と思った。
こいつも、気にしている。
確信できるほどのものじゃない。
ただ、反応が早かった。
楓の言葉の端に、思ったより敏感だった。
ただの同期にしては、俺のことをよく見ている。
5
一杯飲み終えたところで、坂上は席を立った。
「じゃあ、俺、そろそろ」
「もう帰るの?」
楓はごく自然にそう聞いた。
普通のやり取りなのに、今の俺にはいちいち引っかかる。
「明日、ちょっと用事あるから」
そう言ってから、坂上は俺のほうに向き直った。
「織田さん、今日は突然すみませんでした」
「いえ。また機会があれば」
俺も軽く会釈を返す。
表面上は、何の問題もない。
大人同士の、当たり障りのないやり取りだった。
やがてドアが開いて、またカランとベルが鳴る。
その音が遠ざかって、店の中が静かになった気がした。
俺は手にしたグラスに目を落としたまま、さっきまでのやり取りを思い返していた。
七年。
同期。
仕事帰りにふたりで飲みに行く仲。
楓のことをよく知っていて、ふたりにしかわからない時間がある。
それだけでも嫌だったが、たぶんそれだけじゃない。
あいつは、楓が好きだ。
確信とまでは言わない。
けれど、俺と楓の距離を測るみたいな、あのさりげない聞き方。
わざわざ七年と口にしたこと。
ただの同期にしては、俺を気にしていた。
なるほどな、と思った。
感じのいい男だった。
仕事の話も通じるし、嫌なやつでもない。
だから余計にわかる。
あれは、ただの挨拶じゃない。
こっちがどういう立場の男なのか、見ていたんだ。
「楓」
「ん?」
「坂上くんって、よく一緒に飲むの?」
そう聞くと、楓は考えるような間を置いてから答えた。
「うん。前は結構」
前は。
その言い方が、かえって引っかかった。
「最近は?」
「最近はあんまり行ってないかな」
その返事を聞いて、たぶんそうだろうなと思った。
最近減ったのは、俺が楓を誘うようになったからだ。
グラスを指先で回しながら、俺はもうひとつ聞いた。
「彼は、楓のこと好きだよね」
短い沈黙が落ちた。
店内の音楽と、遠くの席の笑い声だけがいやにはっきり聞こえる。
「……たぶん」
楓はそう言った。
「気づいてた?」
「本人から言われたことはないよ」
そこで一度言葉を切って、楓は静かに続けた。
「でも、そうかもしれないって思ってた」
知ってたのか、と思った。
気分が少し重くなる。
けれど、そのことで楓を責める気にはなれなかった。
責められる立場じゃない。
俺だって、片桐さんはたぶん俺に気があるとわかっていながら、それでも会っていた。
はっきり言葉にされないまま、相手の気持ちに気づいていて、それでも関係を切らずにいた。
だから、楓だけを悪く思うのは違う。
そんなことはわかっている。
わかっているのに、面白くないものは面白くなかった。
6
バーを出て、駅へ向かう道を楓と並んで歩いた。
さっきまで店の中にあった音楽も話し声もなくなって、夜の空気がやけに静かに感じる。
それなのに、俺の頭の中だけは耳障りの悪い音が聞こえているようだった。
会話はあまりなかった。
坂上のことが、頭から離れなかったからだ。
知り合った時間の長さなんて、気にしなくていい。
そんなことは、考えるまでもなくわかっている。
長く知っているからといって、それだけで特別な何かになるわけじゃない。
それでも、楓をずっとそばで見てきた男が、たぶん彼女を好きなんだと思うと、放っておけなかった。
「楓」
「ん?」
「坂上くんのことさ」
楓が俺を見る。
「うん?」
「本当に、友達としか思ってない?」
言ってから、自分でも子どもじみていると思った。
けれど、一度口に出したら止まらなかった。
楓は少し目を見開いて、それからまっすぐに答えた。
「坂上くんのことは、友達以上には思ってないよ」
「七年も?」
我ながら、ひどい聞き方だと思う。
それでも、確かめずにはいられなかった。
楓は困ったように笑って、それでも静かに言った。
「七年って坂上くんは言ったけど、ほんとはそんなに長くないし」
「入社して七年だけど、よく話すようになったのは、もっとあとだから」
そう言ってから、続ける。
「それに、長く知ってたからって、好きになるわけじゃないでしょ」
その通りだと思った。
俺だって、片桐さんと会っていた。
半年くらい、途切れながらでも続いていたけれど、時間を重ねたからといって好きにはならなかった。
時を重ねれば気持ちがついてくるなんて簡単なものじゃないことは、自分がいちばんわかっている。
そんなことは、ちゃんとわかっている。
それでも、確認したかった。
楓の気持ちを。
ちゃんと、自分に向いているのかどうかを。
楓の手を取って、そのまま人の少ない通りへ入った。
少し奥まで歩いたところで足を止める。
「じゃあ、俺は?」
そう聞くと、楓が小さく息をのんだ。
「え……」
かすれたような声だった。
俺を見上げて、それから、ためらうように言う。
「……それ、聞くの?」
「聞きたい」
自分でも、ひどく子どもっぽいと思う。
でも、今はどうしても、楓の口から聞きたかった。
楓は困ったようにうつむいて、それからもう一度顔を上げた。
まっすぐに俺を見て、静かに言う。
「好きじゃなかったら、手なんかつながない」
その言葉で、先週のことがよみがえった。
人混みに流されそうになった楓の手を、俺は咄嗟に取った。
楓は迷わず握り返してくれて、そのまま別々のホームへ向かう直前まで、離さなかった。
嫌じゃない。
あのとき楓が言った言葉は、きっともう答えだった。
それでも今の俺が欲しいのは、遠回しな答えじゃなかった。
もっとはっきりしたものだった。
理由なんていらない。
口実もいらない。
ただ、今すぐ確かめたかった。
俺は楓を見て、一歩近づいた。
そっと両腕をつかんで引き寄せると、楓の頬が俺の胸に触れる。
「楓」
名前を呼ぶと、楓がゆっくり顔を上げた。
そのまま、短く唇を重ねる。
すぐに離れて、目の前の楓を見る。
楓が照れたように、でもどこか呆れたように言った。
「これで、わかった?」
「たぶん」
「たぶんなの?」
「もう一回したら、わかるかも」
「調子に乗らないで」
そう言いながらも、楓は本気で嫌がっているようには見えなかった。
その顔がおかしくて、彼女の肩をつかんでいた指のこわばりを緩めた。
けれど次に触れたくなったのは、冗談半分なんかじゃなかった。
もう一度、今度はさっきより近くで楓を見た。
触れた唇の感触が、まだ熱を残している。
俺は笑いながら、楓の頬にそっと触れた。
指先に伝わる熱が、思っていたよりもずっとやわらかい。
逃がしたくないと思った。
もう一度、ゆっくり顔を寄せる。
今度はさっきみたいに触れるだけでは終わらなかった。
重ねた唇は、短いキスの続きみたいに自然で、それでいてひどく甘かった。
楓は最初、緊張したように肩をこわばらせたけれど、すぐに力を抜いた。
拒まないことが伝わってきた。
腕の中にいる楓は小さくて、ちゃんとここにいるのに、まだ足りないと思う。
もっと近くで確かめたい。
そんな気持ちが抑えきれない。
唇が離れても、距離はほとんどそのままだった。
近すぎるところで見た楓の頬は赤くなっていて、伏せられたまつげがわずかに揺れている。
「……冬吾」
名前を呼ばれただけで、またどうしようもなくなる。
「だめ?」
そう聞くと、楓は少し困ったように笑った。
「だめって言っても、もう止まらなさそう」
「うん。たぶん、止まらない」
そう答えると、楓は息をついて、それでも俺を拒まなかった。
俺はもう一度、今度はさっきよりも深く、楓に触れた。
それだけで、十分なくらい満たされるのに、もっとほしいと思ってしまう。
好きだと自覚した気持ちは、いったん触れてしまえば、もう簡単には引き返せなかった。
ようやく離れたとき、楓は俺の胸元に頬を寄せたまま、しばらく顔を上げなかった。
俺はそんな楓の背中に手を回して、静かに抱き寄せる。
今さら言葉にしなくても、たぶんもう伝わっている。
それでも、この腕の中にいる楓が愛しくて仕方なかった。
冬の楓 第10話 「どうしても」 おわり
冬の楓、紅葉便り、ひより日和の挿絵をpixivで公開しています。
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