第2話『古代種とクラス』
ちょっと残酷な描写があるのでご注意を。
少年はまた長耳の男の姿になると屋敷の地下に降りてすぐにある大きな扉の前にたった。
『皆様既にお待ちです。』
『あぁ。』
扉が開かれ部屋に入る。
扉の向こうは晩餐室となっており、今回の作戦で解放した元奴隷の同胞達が席を立っていた。
『座ってくれ。』
長耳の男は同胞達に着席を促す。
晩餐室にいる全ての同胞が自分を見ている。
長耳の男は指をパチンと鳴らす。
すると長耳の男はまだ幼さの残る少年の姿に変わった。
『まずは自己紹介をさせてくれ。ネフィリム王国第2王子、アルム・スヴェント・フォン・ネフィリムだ。』
長耳の男だった少年、アルムは名乗った。
アルムや元奴隷だった彼女達の故郷たるネフィリム王国はエルグランド帝国に侵略され、滅ぼされた。
アルムの口上を聞き、礼節を学んだものはその場に跪こうと席を立とうとした。
『座ったままでいい、楽にしてくれ。ここは王宮でもない、誰もマナーをとやかく言わない。それよりもまず皆に言うべきことがある。』
アルムは晩餐室を1度見回し、そして口を開いた。
『よくぞ、よくぞ生きていてくれた。ありがとう。そして救助が遅くなって申し訳ない。』
深く、深く頭を下げた。
『殿下!頭をお上げください!』
『殿下、私どもに頭など下げないでください!』
『殿下!』
『あぁ、殿下!』
晩餐室が騒がしくなる中でパンパンと手を叩き静粛を促す者がいた。
『皆様、ご静粛に。王宮事務次官のマリク・ハンプシャーでございます。まずはお食事にしましょう。食事をしながらこの後の動きについてご説明させてください。』
年配の男、マリクはかつてネフィリム王国において宰相や大臣に次いで権力を持っていた男だ。
『殿下も仰られた通り、私も含めてこの屋敷に居る者も皆様のご帰還を何より嬉しく思っております。』
マリクは恭しく頭を下げ、頭を上げると同時に給仕に目配せをした。
晩餐室で席に着く者達の食事を配膳するのだ。
『皆様家族の安否や祖国の状況など様々な事が気がかりでしょうがまずは食事です。食べるもの食べて落ち着きましょう。幼い子もいるみたいですしね。』
マリクは晩餐室の席に配膳される料理をキラキラした目で見つめる子供たちに視線を向けた。
『殿下』
『あぁ、皆いただこう。今日の晩餐は我が国の腕利きの料理人が皆のために腕を奮ってくれた。』
アルムの号令で食事が開始した。
『あぁ、この味!!』
『懐かしい!』
『おいしーーい!!』
アルムは食事を美味しそうに食べる同胞達を眺めて目を細める。
カトラリーを置いて声を掛けた。
『食事をしながら聞いて欲しい。陛下と妃殿下は戦死された。』
それまで賑やかだった晩餐の席はしんと静まり返った。
『楽しい食事の席で言うことでは無いのかもしれない、しかし皆には現状を把握しておいて欲しい。』
アルムの言葉に皆一様に視線を下に向けた。
『殿下、よろしいですか?』
『なんだ?』
おずおずと手を挙げて声を上げたのはナルアだった。
『その…他の王族の方々は……?』
『兄上はご無事だ。軍の再編に向けて動いておられる。姉上は……まだ……。』
『申し訳ありません、お答えしずらいことを聞きました。』
『いや、これも王族の務めだ。姉上はまだ見つかっていない。遺体もな。』
『そうですか。』
アルムはグラスの中身を飲み干す。
そして晩餐の席に着いている同胞を見回して口を開いた。
『現在ネフィリム軍は再編の段階にある。物資も人員も足りていない。よってここにいる皆の力を貸して欲しい。クラスによっては軍の方に行ってもらい再編の手伝いをお願いしたい。』
アルムの言葉を聞いた面々は驚いた。
本来ネフィリム軍は"男性のみ"という決まりだからだ。
『殿下、それはこれまでとは……』
ナルアが恐る恐る声に出す。
"これまでとは違う運用をするのか?"
つまり、"女も軍人として登用するのか?"と遠回しに聞いているのだ。
『言いたいことはわかっている。しかし住む土地も、生活も、誇りも奪われた我らに残されているものは何だ?神話の時代より受け継がれてきた我らの血。ネフィリムとしての矜恃だ。』
アルムは務めて穏やかに言葉を紡ぐ。
『過去の時代に於いて、我が国が危機的状況に陥った事が無いわけではない。その度にネフィリムは男女関係なく鎧を着て、剣や槍、弓や杖を取って戦った。今が"その時"だって話だ。』
『かしこまりました。私はヨークシャー家長女、ナルア・ヨークシャーです。クラスは《癒し(ヒーリング)》です。ネフィリムの民として、全力で戦うことをここに誓います。』
ナルアは名乗りを上げ、服の袖を捲って印を見せた。
それを見た他の面々も同じように名乗りを上げ、己のクラスを開示し、印を見せた。
臀部に印があるものや、性的な部分に印があるものは口頭で印の位置を開示する。
己の印を開示することはネフィリム社会において最大の敬意を表す行動だ。
それを見たアルムは満足そうに微笑んだ。
『皆、ありがとう。配属については皆のクラスや適性を鑑みて追って伝えよう。』
そして真面目な表情になった。
『私はネフィリム王家第2王子としてここに宣言する。この世界に存在する人間と言う種族を根絶やしにする。』
晩餐の席に居たもの全員がその言葉の意味を理解した。
ネフィリム王国とエルグランド帝国との戦争では無く、"ネフィリム族と人間種の互いの存続をかけた生存戦争"だと。
アルムの言葉に異を唱える者はいなかった。
何故なら皆、思いは同じだったからだ。
"この世界において、人間種は駆逐されるべき種族だ"
と。
人間種の根絶を宣言した後、再開した食事を楽しんだ。
晩餐も残すところデザートのみとなったところで女性が挙手をした。
『殿下、ご質問をよろしいですか?』
手を挙げたのは今回の作戦で救出された元奴隷の女性だった。
アルムは頷く事で先を促した。
『殿下がこうして帝国におられると言うことは既に人間種の根絶に向けて動いているのですか?』
『いや、先も言った通りネフィリム王国軍もまだ再編の段階故に大掛かりな動きは出来ない。しかしこの帝国はあまりにも人間の数が多い。こちらがいくら準備を整えて蹴散らしたとしても羽虫のようにわらわらと湧いて出てくるだろう。特に帝国の軍人はムジャグルのように厄介な奴らだ。』
ムジャグルとはネフィリム王国で嫌われる害虫のような生き物だ。
"ムジャグルを1匹でも見かけたら100匹いると思え"と言われるほどその繁殖力は凄まじく、そして家の中の食べ物を食い漁る。
ムジャグルは個体差はあれどそこまで大きくない為、各家庭で処理できてしまうのだが如何せんその見た目と繁殖力からネフィリム女性からは親の仇のように嫌われている。
『帝国の軍人をムジャグル呼ばわりとは……。』
質問を投げた女性は口元を手で覆った。
笑いを堪えているようだ。
『人間種がムジャグルのように知性がない虫であれば駆除も簡単だが人間種は非常に狡猾だ。軍を編成して組織で我らに戦いを挑んでくる。我らでは想像もつかないような武器を作ってくる。品性の欠片も無い行動を平気でしてみせる。ムジャグル以下だな。』
アルムの言葉に晩餐室にはクスクスと笑いが溢れた。
そこに王宮事務次官のマリクが割り込んだ。
『殿下、ムジャグルはまだ死ねば土に還り土地の養分となりますが人間はアンデッドになるなどと言う他の生き物にとっても土地にとっても毒にしかならぬ生き物でございます。ムジャグルも人間などと比較されて怒ってしまいます。そして怒ったムジャグル達は夜な夜な殿下のベッドに忍び込んで……』
『やめろマリク!』
アルムの悲痛な叫びは晩餐の笑いを大きなものに変えた。
『皆様、殿下はこの通りムジャグルが大の苦手なのです。なのでこの屋敷でムジャグルを見かけたら即始末してください。』
『『『かしこまりました!』』』
『お前達も微笑ましそうに私を見るな!』
赤面したアルムはわざとらしく咳払いをした。これまでの空気を払拭するかのように。
『私が帝国にいる理由は2つだ。"同胞の救出"と"指揮系統の抹殺"だ。』
『同胞の救出は分かりますが、指揮系統の抹殺とは?』
『人間種は我らと同じく軍を編成して組織で攻めてくる。ムジャグルのように各個撃破で駆逐できるものではない。ならば組織の頭、つまり指揮するものを潰してしまえば良いのだ。人間の軍を指揮する者、すなわち帝国貴族と王族だ。』
『つまり殿下は帝国の貴族と王族を抹殺するためにこうして帝国に潜入しているという訳ですね?』
『まぁ同胞の救助の方が優先度が高い故、帝国軍を麻痺させれるほどの成果は無いがな。』
『いえ、私達はその優先度のお陰でこうして殿下を始めとした同胞の皆様に再会できているのです。立派な成果ではありませんか。』
『ありがとう。しかしまだこの帝国には私達の救助を待つ同胞が居る。1日でも早く救い出し、人間根絶に向けて動き出したい。』
『私も微力ながらお手伝いさせてください。私のクラスは《影》です。隠密行動や諜報にはうってつけのクラスでございます。』
『ふむ……名は?』
『ラハンナ。ラハンナ・マーカスでございます。』
ラハンナの自己紹介を聞いたアルムとマリクは驚きの表情をした。
『まさか貴女はグライド・マーカス将軍の?』
『はい、グライド・マーカスは私の父に当たります。』
ラハンナは怪訝な顔でマリクの質問に答えた。
『そうか、これは将軍に良い知らせが届けられそうだ。』
『まさか父は……?』
『あぁ、将軍はご存命だ。現在兄上と共に軍の再編に向けて動いてくれている。』
アルムの答えにラハンナは両手で顔を覆った。
『あぁ……お父様……生きて…生きておられるのですね…。』
帝国軍の捕虜となったとき、父は戦死したものと思っていた。
震える肩を同じく奴隷だった女性が抱きしめる。
『良かったね。祖神様に祈りが届いたね。』
『はい…はい!』
涙を堪え、肩を震わせるラハンナの姿を見てマリクは口を開いた。
『殿下、今この場におられる方々の名を伺っても?』
『あぁ。家族が生きていると知れば向こうも活気づく。』
マリクの提案をアルムは承認した。
そして家族の生存を知り喜ぶ者、戦死を悼む者、生死不明の状況に失望する者と晩餐室は様々な声で溢れかえった。
そんな中、1人の女児がアルムに近寄った。
『殿下、ラスター侯爵家が長女、ミリアリア・ラスターでございます。』
ミリアリアと名乗った女児は年はアルムとほぼ同じか。
アルムの方が体格差はあるものの比較的健康そうだ。
『ミリアリア嬢、無事で何よりだ。』
『殿下も。あの騒乱からよくぞご無事で。』
アルムとミリアリアは既知の間柄であった。
ミリアリアの祖父に当たる先代侯爵はアルムの祖父、先々代王の盟友と言われるほどの仲だった。
それ故かミリアリアを始めとした侯爵家の子供たちは宮殿について行くことも多く、必然的に王家と既知になっていったのだ。
『妃殿下のクラスのお陰でな。』
『妃殿下の……《隠蔽》ですか。』
ネフィリム王国において、成人した王族のクラスは公表される。
国王のクラスは《反転》
王妃のクラスは《隠蔽》
第1王女のクラスは《調停》
第1王子のクラスは《祝福》
そして第2王子たるアルムのクラスは公表されていない。
何故なら王国があった頃、アルムはまだ成人していなかったから。
ネフィリム王国において1人前の大人として認められる年齢は満15歳からで、毎年春頃にその年で15歳を迎える若者が王宮に招かれ盛大に祝われる。
これを《成人の儀》と呼び、国をあげた祭りが開催される。
ミリアリアもまだ成人していないが淑女教育として王族のクラスは頭に入っている。
『妃殿下のクラスのお陰で王宮にいた私やマリク、宮廷侍女達や暗部の一部は難を逃れた。』
『妃殿下のクラスがあれば王家の皆様も……』
ミリアリアは言外に含みを持たせた。
隠蔽で後宮の抜け道そのものを隠してしまうことも出来たのでは?と言いたいのだ。
『ミリアリア嬢の言いたいことは分かるよ。陛下や兄上、私も妃殿下のクラスには絶対の信頼を置いていたんだ。だから神殿にいた姉上の確保も妃殿下と一部の暗部のみで行った。陛下や兄上が城で戦い、帝国軍の気を逸らそうとしたんだ。』
神殿の神官長を務めていた第1王女もまた帝国の襲撃を受けていたが後宮の抜け道まで後退してしまうといざと言う時の逃げ道が無くなる。
ならば派手に戦って敵の意識を後宮に向けさせない方が良いだろう。
父王と兄が戦っている間に隠密行動に優れたスキルを持つ暗部と隠蔽のクラスを持つ母で第1王女を救いに行こうとなったのだ。
『その言い方ですと作戦は……まさか妃殿下はその時に?』
ミリアリアは不安そうな声を上げる。
しかしアルムは首を振った。
『いや、妃殿下は姉上を確保して後宮に戻られたよ。私もその時妃殿下や姉上と会話している。』
『では何故……』
ミリアリアの問いにアルムは俯いた。
『陛下を……人質に取られたのだ。』
『そんな……』
ミリアリアも思わず両手で口を覆った。
『あの下劣な帝国軍人どもは魔力を消費しすぎて疲弊した陛下を人質にして声高に叫んだ。"王の命が惜しくば妃を出せ"と。
妃殿下のクラスで後宮地下に隠れていた私やマリク、暗部の者たちは出ていこうとしたが妃殿下に止められてしまった。"ここで皆が出てゆけばこれまで戦ってきたものたちが無駄死にになる。"とね。そして妃殿下は私達を残して後宮に攻め入ってきた帝国軍に向かっていったのだ。』
『そんな……妃殿下……』
アルムの表情は険しくなり、先程まで王族然とした振る舞いから一変して憤怒に飲まれた表情をしていた。
そんなアルムの口から語られたのはミリアリアの想像を遥かに超える壮絶な光景だった。
『あの下等種族どもは満身創痍の陛下の眼前で妃殿下を……母上を陵辱したのだ。奴らは笑いながら、母上を救おうとする陛下の手足を切り落とし、傷口を炎で焼き、動けなくして、苦痛に喘ぐ陛下を足蹴にし嘲笑した。そんな陛下に駆け寄ろうとする母上を殴り、犯し、嬲り、汚した。』
『そんな……そんな酷いこと……』
アルムはその光景を目にしていた。
姉が必死に自分の身体と口を抑えていなければ我を忘れて帝国兵に突貫していただろう。
そして王や王妃の亡骸の傍に自分の亡骸も加わっただろう。
『だから私は決めたのだ。人間種などこの世界に必要ない、一匹残らず駆除すると。』
涙を流すアルムの瞳には"絶対に駆逐する"と言う強い意志が宿っていた。
『はい。』
ミリアリアはそんなアルムの迫力に押されるように返事をした。
服の袖で涙を拭ったアルムはミリアリアに向き直った。
『それとミリアリア嬢、貴女に謝らねばならない。』
『何でしょう?』
『私は城から逃げる時、貴女の兄君に助けられた。』
『兄様が……。』
アルムが語ったのはミリアリアの兄、ハイン・ラスターの事だった。
『すまない。ハイン卿は自身を囮にして私達の退路を確保してくれたのだ。私は貴女の兄君を見殺しにした。』
アルムの悲痛は告白にミリアリアは思考が停止してしまった。
そんな呆然としたミリアリアの様子にアルムは余計に罪悪感を感じたのか拳を固く握り、奥歯をギリリと噛み締めた。
『この償いは必ずする。だが猶予を頂きたい、せめて人間を根絶させるまでは……』
苦しそうに言葉を紡ぐアルムを遮ったのはミリアリアの両手だった。
ミリアリアが両手でアルムの固く握りこまれた拳を包み込んだのだ。
『殿下、私達侯爵家の者は王家に仕える家系です。有事ともなれば国の剣にも盾にもなりましょう。その時のために我々貴族は王家から貴族の地位を頂き、領地を治め、領地の税での生活を許されていたのです。此度は戦なのです。戦では人が死ぬものです。貴族として生まれ育ち、何不自由無い生活を送る権利を得ていた私達に課せられた義務は兵を率いて戦場に立ち、民のために散ること。それがネフィリム王国の貴族です。』
自分とさほど年齢の変わらないミリアリアの言葉と手の温もりに強く握りこまれたアルムの手はゆっくりと解かれた。
手のひらから血が出るほど強く握りこまれた手はミリアリアのハンカチで止血された。
『殿下、お聞かせください。兄は侯爵家嫡男としてしっかりと務めを果たしたのですね?』
『……あぁ。勇敢な男だった。たった一人で数十人の帝国兵と渡り合い、私達が逃げ切る時間を稼いで見せた。最後を看取れ無かったことが今でも悔やまれる。』
『そのお言葉だけで兄は十分報われたことでしょう。私もまた勇敢で偉大な兄を持てたこと、祖神様にお礼を申し上げたい程です。』
『ミリアリア嬢……』
『殿下、私も今心に誓いました。必ず人間種を根絶やしにしましょう。あの薄汚い下等種族を必ず!』
『あぁ。必ず!』
ミリアリアは心に誓った。
亡き兄と同じようにこの王子を守ると。
そして国を、領民を、家族を奪った人間達に復讐すると。
『そういえば殿下、殿下ももう成人なされたのでは?』
ミリアリアはアルムに問う。
『あぁ、3日前に15になった。』
『それはそれは、遅ればせながらお祝い申し上げます。』
『ありがとう。あぁ、成人したならば公表せねばならないな。』
アルムは賑やかな晩餐室に目を向けた。
『皆、歓談中すまないが聞いて欲しい。』
晩餐室に集う同胞が一斉にアルムへと意識を向ける。
『個人的な事であるが、実は3日前に私は15歳となった。しきたりに従い私のクラスを公表する。』
アルムは一呼吸置いた。
晩餐室に集う同胞を見渡し口を開いた。
『私のクラスは《変化》だ。万物を変化させることができる。例えばこの晩餐室を含めた地下の空間は私がクラスの力で作り上げたものだ。変化させる対象に制限はない。私自身もこのクラスの力で先程までエルフの男に変化していた。』
アルムのクラス《変化》は万物の状態を変化させる異能だ。
自身の姿形はもちろん他人も変化させられる。
自身が触れるものをなんでも思い通りに変化させる。
これがネフィリム王国第2王子が生まれながらに得ていた力。
古代よりネフィリム族のみが有していたクラスと言う異能だ。
『他にも15歳になるものが居れば教えて欲しい。祖国のそれとは足元にも及ばないが、祝わせてもらう。』
アルムの言葉を聞いた面々は数刻の沈黙のあと口々に祝いの言葉を口にした。
『殿下が!殿下が成人なされた!』
『しきたりを守らず、己のクラスを隠しもせずに城下町でイタズラしていたあの殿下が!』
『兄君に扮して城を出ようとしたら近衛にあっさり見つかっていたあの殿下が!』
祝いの言葉と言うよりは過去の黒歴史を知るもの達からの成長を喜ぶ声だった。
『ええぃ!その事件のことは忘れよとあの時言ったではないか!』
『殿下、流石に第1王子殿下に扮した事件は忘れられませんよ。』
『ミラ!?そなたまで!?』
『あの時城を逃げ回っていたあなたを匿っていると疑われたのは私達ラスター家でしたのよ?お父様とお母様にしつこく問い詰められた事、今でも根に持ってますからね。アル?』
『うっ……すまなかった。』
『反省してくださいまし。』
あまりの羞恥に王子としての態度も忘れ、幼馴染としてミリアリアの名を呼んでしまったアルムはなんとも言えない顔で自分のつま先を睨んだ。
『殿下、そろそろ。』
そんなアルムにマリクが声をかけた。
『あぁ、そうだな。皆、楽しい時間だったがそろそろお開きとしよう。明日も動き回る、ひとまず今夜はゆっくり休んでくれ。』
マリクの助け舟に乗ったアルムは晩餐の終了を宣言した。
『皆様はお部屋にお戻りください。』
皆がそれぞれ動き出す。
『殿下、お願いがあります。』
『どうした?』
ミリアリアがアルムに声をかけた。
ミリアリアの表情は先程の晩餐の席で見た朗らかな表情ではなかった。
『後ほど、殿下のお部屋に伺わせて頂きたいのです。どうしてもお話しなければならない事があります。』
『それはここではダメか?』
『それは……』
ミリアリアは言い淀む。
『わかった。マリクに頼むといい。』
『ありがとうございます。』
『マリク、頼めるか?』
アルムはマリクに問う。
どうやらいい話ではないようだ。
『お任せ下さい。』
『あぁ、頼む。』
その空気を察したのかマリクも恭しく頭を下げた。
『では、ラスター侯爵令嬢をお部屋にお送りしてご準備が整い次第殿下のお部屋にご案内致します。』
『マリク様、お手数をお掛けします。』
『いえいえ。さ、お部屋に参りましょう。』
『はい。では殿下、また後ほど。』
『あぁ。』
ミリアリアはマリクに付き添われて晩餐室を後にした。
1人晩餐室に残されたアルムは天井を見上げ呟く。
『報告』
アルムの前に4人の黒装束が跪いた。
アルムと共に王宮から逃げ仰せた暗部の生き残りたちだ。
『殿下にご報告申し上げます。』
『デグレント伯爵含む一族の始末は完了しました。』
『こちらは第1王子殿下からのものと軍部からの報告になります。』
『今回救助された同胞以外に奴隷市場に売られた者が複数人確認されました。』
4人それぞれから上がる報告にアルムは思案する。
(軍部と兄上から別々の手紙……なにかあったかのか。奴隷市場ならまだ生きている可能性は高いな、今すぐってほどでも無いか。まずは影を増やす方がいいな。)
『ご苦労。今回救助した同胞達の中で隠密に向いている者が複数人確認された。上手く仕上げろ。』
『『『『はっ』』』』
『奴隷市場は引き続きマリクに追わせる。お前たちは掃除と木の実集めに専念しろ。』
『『『『はっ』』』』
『行け』
隠密たちは音もなく消えた。
手には手紙、軍部からの報告だ。
『明日は仕入れか。』
小さくため息をついて手紙を懐に仕舞い、晩餐室を出る。
向かうは自室だ。




