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事件推理を話題に食卓を囲む麟之助と明美。
やがて話題は、二人の過去へ。
今日の夕飯は、父の作った豚の生姜焼き、茄子の味噌汁、雑穀ご飯だった。
二十三区を横断して疲れ果てただろうに、父ときたら帰る途中にスーパーに寄るように言うと、手早く買い物を済ませ、帰宅するなり料理を作り始めた。
わたしなんか、仕事が終わって料理を作る時は、這う這うの体でやっている。娘のため、という理由がなければ毎食レトルト食品にしたいところだ。
よくもまぁ、こんな体力があるものだ。
それに手際が良い。親子三人で暮らしていた時は、キッチンに入ることどころか、家に帰ってくることすら珍しかった。
母が亡くなって十七年経つが、その間に自炊を覚えて自分のものにしたのだろう。
わたしは、今日の振り返りをすることにする。
「川登乙音が光恒の母親だって説、確度が増したと思うんだけど」
「なぜだ」
「光宗の話だと、光恒とは血がつながっておらず、光平が突然彼を連れてきた。それに、光平は光恒の母親が銀座でホステスをやっていたと言っていたわ。乙音とは限らないけど、彼女が光恒の母親だという説の状況証拠にはなるでしょう」
「銀座にホステスが何百人いると思ってるんだ」
父の言葉を無視して、話を続ける。
「光恒は、基本的に周りの人間を信用していなかった。そうして長じてもなお、周囲に心を開かず、そのまま法曹の道を歩み始めた」
わたしはダイニングテーブルの脇から灰皿を引き寄せた。父も煙草を取り出す。
「最初はまじめに仕事に取り組んでいたんでしょう。そんな時、母親だと名乗る川登乙音が目の前に現れ、光恒は怒りにかられた。『この女が僕を捨てなければ、父親に虐げられることもなく幸せに生活できていたかもしれない』とか。
気付くと、光恒は乙音をめった刺しにしていた。そこから、光恒の中で何かが壊れた。彼は、犯罪者たちを法廷で裁くだけでは飽き足らず、外に出て私刑を与え始めた」
わたしが推理を語り終えると、父は吸い殻をぽいっと灰皿に弾いた。
「筋は通っているが、記事にできるか?」
「・・・できない。証拠がない」
「しかも説明がついていない。一体光恒の何が壊れて、罪を重ね始めたんだ?」
わたしが答えられずにいると、父が小声でつぶやいた。
「なぜ法の利益のもとに殺人行為に手を染めたのか・・・」
食卓にはただ煙が漂った。わたしはずっと感じていた疑問を聞いてみることにした。
「それにしても、どうして光恒は父親に反抗しなかったのかしら。社会人にもなれば物理的にも精神的にも、父親から逃れる術はあったはずでしょう? それでも、父親の敷いたレールの上を歩き続けたのは何故かしら」
「世の中には、何歳になろうと親に反抗できない子どもは意外と多い。まぁ、お前の場合は一撃で終わったが。母さんが亡くなって、高校卒業と同時に家を出た」
父の突拍子もない昔話に、わたしは思わず煙を吸い込み、むせた。
この十年、父からあの時期の話が出たことはない。
――それなのに、何を今さら。
「十七年も前のこと、急に言わないでよ。それに一撃じゃないわよ」
「・・・なに?」
「報道の世界に進んだ理由も、ある種の反抗。警察に対峙するならマスコミが一番だって思ったから。まぁ、当てつけって言った方が良いかもね」
「・・・当てつけ、か。ふぅ、さすがに今日は疲れた。風呂の湯、入れてくる。皿洗い、頼んでいいか?」
わたしが頷くと、父は浴室へと消えていった。
父と娘が疎遠な理由、その一端が明かされる回でした。
次回、明美、奮闘(?)。
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