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夕暮れの高速道路を駆け抜けながら、わたしは持論を披露した。
「川登乙音の子どもって、龍ヶ淵光恒じゃない?」
父は口をへの字に曲げた。
「親子関係を示す証拠は? まさか、乙音が二十三年前に子どもを産み、自宅に龍ヶ淵光恒のインタビュー記事があったことじゃないだろうな」
「それは入り口。証拠はこれから集めるのよ」
「どうやって?」
「DNA鑑定でもやれば、一発で分かるでしょう?」
「埼玉の被害者と東京の加害者、管轄が違う。根拠がないと鑑定など簡単にはできん」
「だったら、その根拠を掴むために乙音殺しをもう少し調べるべきだと思うけど」
「武藤から依頼されたのは、龍ヶ淵の余罪の有無だ。未解決事件の捜査じゃない」
父はそう言うと、視界を遮る防音壁を目で追い始めた。
「・・・とにかく乙音殺しと龍ヶ淵の関係を調べるなら、もう一方の調査が重要だ」
「もう一方?」
「龍ヶ淵光恒その人についての調査だ。我々は彼のことを知らなすぎる。明日は、彼の家族や同僚に話を聞きに行く。そのうえで、乙音殺しをもう一度検討すればいい」
素っ気ない父の言葉に、わたしはアクセルを強く踏むことで応えた。
次の日、父は既に会うべき人間たちと会えるように段取りを整えていた。まずは光恒の上司である東京地裁の白石判事に会いに行った。
白石は公判が立て込んでいるというので、出勤前に地裁裏の公園で待ち合わせを提案してきたらしい。そうして今日もわたしは父を車に乗せ、日比谷に向かった。
「お待たせしましたか?」
公園のベンチに座って待っていると、球粒の汗を額に浮かべ、仕立ての良いスーツを着た小柄な男性が早足で近づいてきた。
「いいえ、我々も今しがた来たばかりです。白石判事ですね?」
わたしたちは立ち上がり挨拶を交わす。今日もわたしはアシスタントだと紹介された。
父は白石をベンチへ促した。白石は恐縮そうに何度も頭を下げて腰かけた。父が隣に座る。自然と、わたしが二人を見下ろす形になった。
「急なお呼びたてで申し訳ありません。今日は・・・」
「龍ヶ淵光恒くんのこと、ですね」
にこやかな顔にも目線の鋭さを備え、白石が先手をとる。
「その通りです。彼の普段の仕事ぶりや職場での様子をお伺いしたいと思いまして」
「熱心だった、の一言がまず出てきます。出廷するすべての人々から話を聞き、判例を必死に調べ、慎重に量刑を定める。真摯に法職を務めようとしていたと思います」
「ところがそれだけではなかったと」
「・・・はい?」
「『熱心だった、の一言がまず出てきます』とおっしゃった。まず、ということはその先に別の言葉が隠されていることになります」
白石が引きつった微笑を浮かべる。
「さすが元刑事さんだ。ええ、いつの頃からか龍ヶ淵くんにはある種の危うさを感じるようになりました。なんというか、被告人に対して・・・一定の距離をとる、といった感じです」
「具体的には、どういった意味でしょう?」
「うぅん、そうですね・・・。被告の陳述に重きを置かなくなった。弁護人や検察官、証人の意見だけを聞いている様子でした。これはまずいぞ、と思った記憶があります」
「実際に、本人にそのことを伝えましたか?」
「もちろん。独善的な判決を下しかねませんからね。しかし彼は、口では分かりましたと言いながらも、聞きいれませんでした。元々、他人のアドバイスを聞かない傾向がありました」
「自分が絶対に正しいと、信じていた?」
「おそらく。法曹の名家に生まれ、必死に勉強して今の職を手にしたのでしょうから、他人より優れていると思ったとて不思議はありません」
「そう言えば、ご家族の話などはされていましたか。父が弁護士、兄が検察官ですから、話題に出ることも多かったのでは?」
「一度、公判記録でお父上の名前を見て、近況を聞いたことがあります。いつもの無愛想な態度ではなく不機嫌になったので、これは触れない方が良いと分かりました」
白石への聞き込みはそこで終わり、わたしたちは次の目的地へと向かった。
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