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普段はよそよそしい父と娘が正面切って煙草を吸っている光景を、常日頃からわたしたちの親睦に心を砕く夫が見たら、泣いて喜ぶだろう。
崎所雅哉と婚約するまで、父とは、高校卒業後から没交渉の時期があった。きっかけは母の死。原因は家族を顧みない刑事への怒り。よくある話だった。
一課長からの依頼を引き受けた父に、わたしは同行する意思を伝えた。
‘0件目の殺人’が本当にあるのか、好奇心が抑えられなかった。それに、父の捜査にも興味がある。
引退した今でも駆り出されている元刑事の手腕を、一記者として見てみたい。
父は断固反対した。しかし一課長は、父と引き合わせたわたしを立てて、記録係兼運転手として一緒に行動してはどうかと援護してくれた。
記事を週刊誌に売るのは自分に聞いてからにしてくれ、という条件付きだったが。
それでもなお渋っている父を強引に品川の自宅へ連れて行った。都合良く、夫はスイスに単身赴任中で、娘も夏休みでそちらに行っている。家にはわたし一人しかいない。
一服を終えると、父はわたしのパソコンを使って、一課長から送られた捜査資料を見始めた。わたしも見ようと、隣に座る。
六件の殺人は、都内での犯行であることを除けば、手口も現場も統一性がなかった。
一件目は去年の二月、西東京市でバールでの撲殺。二件目は、五月に葛飾区で歩道橋からの突き落とし。三件目は港区でロープによる絞殺が八月。江戸川区でビニールによる窒息が十一月に起きて、翌年二月に大田区で撲殺。そして、五月の新宿区で毒殺に終わる。
「詐欺罪で逮捕、後に釈放された中年。同級生をいじめて自殺に追い込んだ学生に、恋人を殺害して三年の実刑を食らった女。麻薬のディーラー疑惑のある男に性犯罪者、放火犯。・・・確かにいわくつきの被害者ばかりね」
資料を読みながらひとりごちるわたしを無視して、父はつぶやいた。
「刺殺がない」
「・・・え?」
「刺殺は最も多い手口だ。包丁、カッターにはさみ、手に入れやすい。それがない」
「たまたま、じゃないの?」
しかし、またしても父はわたしの言葉を無視して、スマホを手に取った。
「あぁ、お疲れ様。江津です。さっきはどうも。急で悪いんだが、関東近郊の未解決殺人、それも刺殺のヤマ、これをピックアップして送ってくれ。うん。お願いします」
「それで、届いたの? 未解決刺殺事件の一覧は」
次の朝、朝食を食べながら私が聞くと、自分が焼いた鮭を丁寧にほぐしていた父は短く頷いた。
一課長の仕事の早さに舌を巻く。そして、父の料理の上手さにも。
朝餉を終えた父とわたしは、昨夜遅くに届いたという一覧を読み始めた。
「この二十年で十四件のお宮入りか。龍ヶ淵光恒は今年何歳だ?」
わたしは昨夜プリントアウトした分厚い捜査資料をめくる。
「二十三歳」
「若いな」
「史上最年少の裁判官よ。昨日、一課長から話を聞いて思い出したの。二年前にその話題で法律雑誌に特集を組まれていたこと」
「ほぉ、・・・待て。ちょうどその頃に起きた未解決事件がある。一昨年の十一月、場所は埼玉。殺されたのは、スナックのママか」
「その人、前科者なの?」
「いや、違う。武藤は一覧の中に今度の事件と共通する被害者はいないと言っている」
だったら読む前に言いなさいよ。
今さら前提を覆され、被害者たちには申し訳ないが、この一覧からの興味が失せてしまう。
わたしが無関心になったことを知ってか知らずか、父がさらに言葉を重ねる。
「もう一つ共通点がある。すべての事件は三ケ月周期で起こっている」
わたしは再び捜査資料をめくる。父の言う通りだった。
そして、埼玉の事件は、最初の事件の三ケ月前に発生している。
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