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茫然自失のさまを露わにしている光恒を労るような目線を向けた父は、そこから一気呵成に言い放った。
「ここまでもったいぶってしまいました。それでは、核心に触れましょう。誰が川登乙音さんを殺害したのか。それは、ここにいる龍ヶ淵光恒さんです」
「待ってください。それでは、筋が通らない!」
それまで黙っていた光宗が弟と老探偵の間に立ちふさがった。
父は再びにこやかに笑い、反問する。
「どこが、でしょうか?」
「なにもかもですよ。そもそも川登という女性と光恒には、何の関係もなかったのでしょう? だったら、殺す理由などないはずだ」
「その通り。しかし、川登さんを殺害する確たる動機が光恒さんにあったとしたら?」
光宗の目に力がこもる。
父は光宗の反論を待たず、先を続けた。
「光宗さん、あなたは先日こうおっしゃった。『光恒は父自らの教育を施された』、と」
「そうです。世間一般で見れば、どうみても異常な教育を受けていたと思います」
途端に大きな音がした。光平が突然椅子から飛び上がったのだ。
鬼の形相で長男を睨んでいる。
「貴様、よくも・・・。よくもそんな生意気な口をきけたものだな」
応接間の空気が一瞬で凍りついた。それと同時に、刑事たちの鋭い視線が光平に向けられる。
光宗は少し怯んだようだったが、毅然とした態度で睨み返した。
「間違えたことは言っていない。あなたは異常だ」
光平の顔がさらに紅潮し、反論しようと口を開けた。だがそれを、父が片手をあげて制した。光平は憤然として父を睨んだが、首を振り、再び座った。
「遊びにも行かせず、一日中部屋に閉じ込め、ただ勉学のみに励ませた。それが、あなたの言う‘異常’な教育ですね?」
「ええ、結果として、弟は優秀な子どもになった。その代償に、父への服従を強いられたと思っています。ただそれは・・・、我々周りの大人たちにも責任があったことですが」
「あなた自身も同じような境遇にあったのではないですか?」
「僕は高校に入ってすぐ家を出たので、全く同じと言わけではありません。弟は十八歳までこの家に残りました。思春期の多感な時期です。その影響は計り知れない・・・」
光宗の言葉に小さく頷いた父は、未だ茫然自失の最中にある光恒の脇に立つと、おもむろに切り出した。
「地獄のような屋敷で過ごした少年時代は、光恒さんにどのような影響を与えたのでしょう。
例えば、こう考えたのでは。『母さえ自分を捨てなければ、自分がこんな辛い目にあうこともなかった』と。その鬱憤を消化できずに大人になり、やがて母親に出会う。その時、積年の怒りが爆発し、彼女を殺してしまう・・・」
光宗が再び目元に険を浮かべた。
「憶測もいい加減にしてください! 川登乙音さんと光恒には親子関係がなかったと、あなた自身が先ほど証明したじゃないか!」
「ええ、ありませんでした。しかし、二人に血のつながりはないと科学的に証明されたことを、我々が知ったのはついさっきです。恐らくこれは光恒さんも同様でしょう。でなければ、ここまでショックを受ける必要はない。演技にしても、不自然です。
ですがこう考えれば筋は通ります。何者かが光恒さんに、母親は川登乙音だと嘘を吹き込んだ。そのために、光恒さんは凶行に及び、連続殺人という道を走り出してしまった」
「誰かが嘘を・・・?」
光宗は何度も目を瞬かせた。
そんな残酷な嘘を一体誰が吹き込んだのか?
わたしの背中に、冷たい戦慄が走った。
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