07 追い詰められるもの
翌日、学校に八ツ柳修子が行くとそれは起こっていた。
机への いたずら書き──
"死ね" "ブス" "男好き" "ヤツメウナギ女" "生臭い"
殴り書きされたそれは当然周りからも見られた。クスクスという笑い声やヒソヒソと囁く声がする。
「"ヤツメウナギ女"だって。あの顔だもんねぇ……」
水性ペンだったようで、机はウェットティッシュで拭くとある程度が消えた。
だが授業を受けていると──調度その日開く教科書や資料のページのあたりに、また いたずら書きがあった。
見つけるたびに 修子の心は引き裂かれた。
"いい気になるな"
"キモい"
"口臭いんです!"
"いなくなれ"
もっと多くの言葉、もっと酷い文章もあった。
修子は具合が悪いと給食は食べずに保健室に行き、ベッドで声を押し殺して泣いた。
彼女の人生で時折──これまでも起こってきたことだった。
視力が悪く乱視もある自分は度の強い眼鏡を常にかけていて、目がまん丸く見られるようだ。
そして鼻が上向きで顎の下が引っ込んでいるような輪郭のために、名字からよく
"ヤツメウナギ""ウナギ女"と からかわれてきた。
スポーツは苦手で勉強も中の上──なんの取り柄もなくて友達もいない。友達どころか、年齢が上がるごとに異性は勿論、同性にすら避けられることが多くなってきた。
誰もが私を嫌っている……
正直言って 先生や……親すらも、だ。
先生に相談しても面倒そうに見られるだけだった。言葉だけの正義で、せいぜい形式的な注意がされるだけ。
その後も彼らと自分は同じ檻の中。告げ口をしたと、むしろ相手からの嫌がらせが酷くなるのだ。
両親は私を冷遇はしないけれど 妹ばかり可愛がっている。そして私が何か失敗すると憐れんで……仕方ないというように溜め息をつく。
いじめを打ち明けたところで、またあの溜め息を聞くのだろうとは分かっていた。
誰もが"気持ちは分かるけど"とか"そんなことをされて辛いわね"とか言いながら、何もしてはくれない。
誰も助けてなんかくれない
誰も私を愛してもくれない
きっと この先も ずっと────
そうして未来が絶望の闇に閉ざされたとき、窓の外の青さはあまりに美しく見えた。
フラフラとベッドから降りて窓に近づく。鍵を開けてから気がついた。
保健室は残念なことに2階だ
ああ、ここが5階や6階なら良かったのに
…………行こうか──
どうせ誰も止める人もいない
どこか空き教室があるかも
ううん、みんながいる教室の窓からだって
きっと 誰も私を止める人はいない
そこまで確信のできる孤独に、修子はむしろ面白くなってきて笑いがこみあげた。そうして窓辺で笑っていると 体育をしているクラスの生徒達が目に入る。
3ーDだった。
修子の瞳はようやく焦点が合い、何かをとらえようとする意志が宿る。
迷子の子供が親を探すかのように必死に目で彼を探す。
そして見つけた。
夜岸連 を
輝く青空の下で私の大切な人は今日も元気にしていた。
彼は美しくてカッコ良くて一生懸命で、その上誰にでも優しくて心まで綺麗な──奇跡のような生き物。
良かった 彼の笑顔を見れた
昨日は話すこともできた。
彼の方からこの私に……ウナギみたいな私に近づいても来てくれた。
もう死んでいいと思ったんだ──あのとき 本当に
やっぱりそうしよう
修子は上の階に行こうと、保健室のドアに向かった。
そこで気付いたんだ。
私、ジャージの上を彼に返さなければいけないんだった──
お読みいただきまして誠にありがとうございます。
次回、少し登場人物が入り乱れてきますので、前書きに登場人物紹介をつけたいと思っております。
引き続きよろしくお願い致します。




