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恋を狩る夜に  作者: シロクマシロウ子


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8/18

07 追い詰められるもの

 



 翌日、学校に八ツ柳修子(やつやなぎしゅうこ)が行くとそれは起こっていた。


 机への いたずら書き──


 "死ね" "ブス" "男好き" "ヤツメウナギ女" "生臭(なまぐさ)い"


 (なぐ)り書きされたそれは当然(とうぜん)(まわ)りからも見られた。クスクスという笑い声やヒソヒソと(ささや)く声がする。


「"ヤツメウナギ女"だって。あの顔だもんねぇ……」


 水性(すいせい)ペンだったようで、机はウェットティッシュで()くとある程度が消えた。

 だが授業を受けていると──調度その日開く教科書や資料のページのあたりに、また いたずら書きがあった。

 見つけるたびに 修子の心は引き()かれた。



 "いい気になるな"

 "キモい"

 "口(くさ)いんです!"

 "いなくなれ"



 もっと多くの言葉、もっと(ひど)い文章もあった。

 修子は具合(ぐあい)が悪いと給食は食べずに保健室に行き、ベッドで声を押し殺して泣いた。


 彼女の人生で時折(ときおり)──これまでも起こってきたことだった。

 視力(しりょく)が悪く乱視(らんし)もある自分は度の強い眼鏡を常にかけていて、目がまん丸く見られるようだ。

 そして鼻が上向きで(あご)の下が引っ込んでいるような輪郭(りんかく)のために、名字(みょうじ)からよく

 "ヤツメウナギ""ウナギ女"と からかわれてきた。


 スポーツは苦手で勉強も中の上──なんの取り()もなくて友達もいない。友達どころか、年齢が上がるごとに異性は勿論(もちろん)、同性にすら()けられることが多くなってきた。


 誰もが私を(きら)っている……


 正直言って 先生や……親すらも、だ。


 先生に相談しても面倒(めんどう)そうに見られるだけだった。言葉だけの正義(せいぎ)で、せいぜい形式的(けいしきてき)な注意がされるだけ。

 その後も彼らと自分は同じ(おり)の中。告げ口をしたと、むしろ相手からの(いや)がらせが酷くなるのだ。


 両親は私を冷遇(れいぐう)はしないけれど 妹ばかり可愛(かわい)がっている。そして私が何か失敗すると(あわ)れんで……仕方ないというように()(いき)をつく。


 いじめを()()けたところで、またあの溜め息を聞くのだろうとは分かっていた。


 誰もが"気持ちは分かるけど"とか"そんなことをされて(つら)いわね"とか言いながら、何もしてはくれない。



 誰も助けてなんかくれない



 誰も私を愛してもくれない



 きっと この先も ずっと────




 そうして未来が絶望(ぜつぼう)(やみ)()ざされたとき、窓の外の青さはあまりに美しく見えた。

 フラフラとベッドから降りて窓に近づく。(かぎ)を開けてから気がついた。



 保健室は残念(ざんねん)なことに2階だ


 ああ、ここが5階や6階なら良かったのに



 …………行こうか──


 どうせ(だれ)も止める人もいない


 どこか()き教室があるかも


 ううん、みんながいる教室の()()()()()()


 きっと 誰も私を止める人はいない



 そこまで確信(かくしん)のできる孤独(こどく)に、修子はむしろ面白(おもしろ)くなってきて笑いがこみあげた。そうして窓辺(まどべ)で笑っていると 体育をしているクラスの生徒達が目に入る。

 3ーDだった。

 修子の(ひとみ)はようやく焦点(しょうてん)が合い、何かをとらえようとする意志が宿(やど)る。

 迷子の子供が親を探すかのように必死(ひっし)に目で()を探す。


 そして見つけた。



 夜岸連(やぎしれん) を



 (かがや)く青空の下で私の大切な人は今日も元気にしていた。

 彼は美しくてカッコ良くて一生懸命(いっしょうけんめい)で、その上誰にでも優しくて心まで綺麗(きれい)な──奇跡(きせき)のような生き物。


 良かった 彼の笑顔を見れた


 昨日は話すこともできた。

 彼の方からこの私に……ウナギみたいな私に近づいても来てくれた。


 もう死んでいいと思ったんだ──あのとき 本当に


 やっぱりそうしよう


 修子は上の階に行こうと、保健室のドアに向かった。




 そこで気付いたんだ。




 私、ジャージの上を彼に返さなければいけないんだった──










お読みいただきまして誠にありがとうございます。


次回、少し登場人物が入り乱れてきますので、前書きに登場人物紹介をつけたいと思っております。

引き続きよろしくお願い致します。


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― 新着の感想 ―
いじめ展開、キター! もとい、来てしまいましたか。 なんてひどい言葉……いや、よくみると、『もっとひどい言葉』とな? いったい何を言われたのか……。ちょっとだけ気になりますね。
やっぱり始まってしまったか。 悪役令嬢三人衆によるイジメが。 修子さんタイプのキャラクターが相手だと、ここぞとばかりに便乗したクラスメイトも複数いそうだなあ(・_・;) 大抵1クラスに1~3人くらいは…
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