06 追われるもの
見つけた!
中庭でその姿をとらえ、ファンレターの送り主だと瞬時に分かった。
彼女が転んだのはこちらには幸運だった。近づくきっかけを逃すものかと踏み出す──
「大丈夫? これ使って」
彼女を立たせてバックから、持ち帰ろうとしていた予備のジャージの上を取り出した。拒否される前に素早く腕を彼女の腰に回して濡れたスカートを上からおおった。ジャージの腕の部分を結ぶ。
間近では豊潤で濃厚な香りだ。それでもしつこさや いやらしさは全くない。
立たせた時に腕に触れただけで海の波が押し寄せるかのような癒しに──こっちの足元がふらつく気さえした。そうして飢餓感はなだめられたのに、圧倒的な本物の存在感に好奇心と闘争心が全開にされる──
"コレヲ喰ッテミタイ"
唾液が口に溢れ、ゴクリと喉が鳴った。
しかし彼女のくれる癒しの波中で 落ちつけと自分でもいい聞かせる。周囲には他の生徒の気配があちこちにあった。いきなり抱きしめて、彼女が騒ぎでもしたら大変なことになる。
"ジックリト──狩レ"
本能の声がした。
一度目を閉じてその声に頭の中でうなずいた。
──目を開けてその人の顔を初めてしっかりと見る。
彼女は突然のことに、とても驚いているようだった。
「使ってないジャージだから。後で返してくれたらいいよ。僕は3ーDの夜岸。きみは?」
「…………八ツ柳…です。……A組の」
メガネの奥の瞳は怯えているかのようで、そらされたままの返事だった。
「八ツ柳さんだね。──着替えに行ったらいいよ。水やりなら僕がしておくから」
「……大丈夫です。ジョウロを置いていって下さい。後でわたしがやりますから」
本当は"待っているから水やりを一緒にやろう"と誘いたいとか、"どうしてそもそも1人でやっているのか"聞きたいとか いろいろな気持ちはあった。
だが彼女の所作と言葉は見て聞く限りでは────どうしても拒絶を表していた。
グッと奥歯を噛んで堪えて立ち上がる。
前進はした。
クラスと名字を抑えたし、彼女はジャージを必ず返しにも来てくれるはずだ。
下手をして 確かに感じるこの──"真の恋心"を消されては何にもならない。
「じゃあ、ジョウロは花壇横に水を足して置いておくね」
私がにっこりしてそう言うと、彼女は初めて私と目を合わせた。
「……ありがとうございます」
そう言ってその場を去っていった。
これが 私と八ツ柳修子の出会いだった。
上空の3階のベランダからは、雨宮英里、近藤アイナ、今井景子達が私達を見ていた。
私はまだ知らなかった。
彼女達もまた獣の如き獰猛さと残酷さが備わっていることを────




