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恋を狩る夜に  作者: シロクマシロウ子


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04 これまでと違う香り

 





 "お前のやっていることは()()ではない。

 ()()を つまんでいる程度(ていど)のものだ"



 父親の言葉はその後も耳に残った。

 だが──どうにもならなかった。

 あの人もそれ以上何も"食事"について話してくることもなかった。


 スポーツや学業(がくぎょう)で目立ち、好意(こうい)を持たせる。空腹(くうふく)を感じてくると告白し抱きしめて"恋心(こいごころ)"を(いただ)く。

 気軽(きがる)手軽(てがる)容易(たやす)さを繰り返す。




 何が悪いのだろう?




 これで()()()()()()()()()()()()のに







 中学3年になり、部活は最後に全県大会までいって敗北(はいぼく)した。

 この頃になると、()いていた(たね)は育ち──取り巻きのような女子グループが自分の周りにいるようになっていた。

 手を伸ばして肩を(つか)めばすぐにでも(いや)しをくれる(かて)だった。

 ──確かに、菓子のように わずかであっても。



(れん)くん、今日ファミレス行かない? ドリンクバー学生半額(はんがく)デーだって。小塚(こづか)達は絶対行くって大騒ぎしているよ」


 大会が終わって3日後のことだった。元マネージャーの女子に、帰ろうとした靴棚(くつだな)で声をかけられた。

 部活は引退(いんたい)しても放課後にはバスケットボール部のチームメイトとは つるんでいた。

 特に他にやることもなかったから。


「分かった。(はら)()った。どこのか教えて……」


 返事をしながら外履(そとばき)に指をかけたときに、何かに()れた。──そこから伝わってきたものに、ドキリとする。

 (のぞ)くと白い封筒が靴の上にあった。

 それを(つか)むとさらに分かった。


 これまでとは違う…………重厚(じゅうこう)良質(りょうしつ)()()


 (ただよ)(のこ)()は キツい甘さでもなく しつこさもない。

 (さわ)やかで(やわ)らかで(やさ)しい──初めて知る香りだ。


 咄嗟(とっさ)眼前(がんぜん)にいる女子は素通(すどお)りして廊下(ろうか)で左右を見渡(みわた)したほどだった。

 (かお)りの(ぬし)を探して──


「連くん、どうしたの? またファンレター? 大会前には応援のがよくあったけど、終わってからって……"付き合いたい"とかかもね。(あさ)はかよねぇ」


 浅はかではない──"付き合いたい"なら大歓迎(だいかんげい)だ。


 (ふう)を切って便箋(びんせん)を取り出すと、綺麗(きれい)な字で2行だけ文章が書いてあった。



 "部活動ご苦労様でした。

 これからも応援していきます。ずっと。"



 それだけ。あとは名前も何もない。


 私は元マネージャーの──雨宮英里(あまみやえり)に振り返った。


「悪い。僕は今日はやめとく。用事を思い出した」


 彼女は顔を(ゆが)めて言ってきた。


「え────!? お(なか)()いたって言っていたのに?」



 "だからだよ"



 私はファンレターを右手に持ったまま校内へと戻った。



 手がかりか 本人が──欲しい



 それは切実(せつじつ)な想いでさえあった。









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― 新着の感想 ―
思考を染め、ひたすらに食欲をそそる香りは一流のシェフにも作り出せない恋の残り香。 ならば本人からはどれ程の芳醇な香りがそそり立つのか。 そんな頭の片隅に父の言葉が蘇る。 菓子を摘まんでいるようなものだ…
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