15 獲物の行末
ー登場人物紹介ー
◆夜岸連・"恋心"を食事にする生き物。中学生3年D組。
◇八ツ柳修子・連に片想い。A組。
あの日、家に着いて私はとても子供っぽいことをした。──実際、身体だけは大人でも……まだ子供だったのだろう。
私は父親に自慢すると言う──実にくだらない真似をしてしまったのだ。
父に 自分に恋人ができたこと、彼女は本当に私を愛してくれていることを話した。そして、その愛をまもなく食べる予定だと。自分も、もうすぐ愛の味を知ると教えた。
父はいつもは私にはあまり感情を出さない。だがその時だけは──瞳になんらかの感情が宿っているように感じた。闇ではなくて。
向かい合ったソファで、彼はゆっくりと話し出した。
「年齢の数値が低い(若い)うちに体感できるのは貴重なことだ。──おめでとう」
珍しく褒めているのだと思った。私は多分笑っていた。
「一つだけ教える」
彼は言った。
「私達を本当に愛する女達は、その愛を失うと悩むのだ。
"何故あんなに愛していたのに、自分はその気持ちを失ってしまったのだろうか"……と」
この人は何が言いたいのだろう?
「それでも傍にいれば彼女達は再び私達を愛する。そう しむけることも容易だ。再び喰らうことも。むしろ喰わずにはいられないだろうな。最高級の食べ物だし、我々に真に満足感をくれるのはそれしかない。
食べても、彼女達はまた"何故あんなに愛していたのに、自分は再びその気持ちを失ってしまったのだろうか"と悩み自らを責めるだけだ。それも、こちら側は痛くもかゆくも無いこと。
恋心や愛を食べているなんて──誰も気付きもしないんだ。
我々の"感覚"も"能力"も、人間の医学や科学では立証が出来ない。つまり私達はこの世界に裁かれることは無いだろう。
だが1人の人間で食事を繰り返していると……」
彼は静かに私を見据えた。私はもう笑みが消えていただろう。
「その女性は狂っていく。頭がおかしくなったり、心が病むのさ。────愛を失う自らを責め続けて」
しばし静寂があった──
部屋には壁時計の音だけがしていて、私達はソファで向かい合っていた。
もうすぐ夜の闇が全てを包む頃だった。
「彼女達は……愚かだ。脆くて弱くて無防備で。それなのに全てを差し出す。……哀しい生き物だ」
父は少し姿勢を変え、目を伏せた。
「お前がどう生きるかはお前の自由だ。食事のやり方は特に──誰も口出しは出来ない。しても、意味もないことだ」
それでも、聞いてみたかった。この目の前の人に。
「父さんは……その食事を繰り返し食べた? だから知っているんでしょう?」
その人は再び私と目を合わせた。
「──そうだ。間違いなく……最高の食事だった。何度喰っても飽きることもなかったから、手放さなかった。だが そのときは来た──」
私はどうするのだろう?
八ツ柳修子は確実に美味いに決まっている。
………………別に手放さなくても いい気もした。
彼女達は結局は"食料"なんだ。
食べることは止められない。
好きなものを喰えるだけ喰って何が悪い?
あちらだって一緒にいることでの幸せだって必ずあるはずだ。
私はいろいろと逡巡していた。父は──今思うと、それを見透かしていたのかもしれない。
彼は その夜 最後の言葉を告げた。
「最高の食事だったよ。────お前の母親は」




