13 恋ではない狩りを2
ー登場人物紹介ー
◆夜岸連・"恋心"を食事にする生き物。中学生3年D組。
◇八ツ柳修子・連に片想い。A組。
◾️橋本爽子・元女子バスケットボール部員。D組。
◾️加々見舞・連の2年生からのクラスメイト。D組。
●雨宮英里・元男子バスケットボール部マネージャー。A組。
●近藤アイナ・雨宮英里の友達。A組。
●今井景子・元女子バスケットボール部員。C組。
○伊東孝昌・元男子バスケットボール部員。3年。
○小塚良平・元男子バスケットボール部員。3年。
○大友健也・元男子バスケットボール部員。3年。
○森田勝・元男子バスケットボール部員。3年。
○阿久津仁・元男子バスケットボール部員。3年。
明るく温かくなりつつあるはずなのに、中庭の空気はひんやりとしていた。
私は無言の雨宮英里に質問を重ねた。
「何で英里は──英里達は、八ツ柳さんを校舎裏に引っ張って行って彼女のポニーテールを切ったの?
やり過ぎだと思う。あまりにも。
今井さんもそう言って止めたのに、やめなかったって聞いてる。"あのブスの味方になるヤツなんかいないから、大丈夫だって英里と近藤アイナが他の女子4人に声をかけた"──って」
近藤アイナは3階のベランダにいた。自分の名前が出て、彼女も蒼白になった。
「もっとずっと前から筆入れがゴミ箱に入れられていたり、外履を隠されたり、わざと押されたりしてきたって八ツ柳さんは言ってる。────これ、八ツ柳さんだけじゃないんだよね」
私の言葉に、加々見舞がうなずいた。
「私もやられた。同じことを────あなた達に。去年の前期、連くんと一緒に副委員長になった時期に」
加々見舞と橋本爽子とは、あの中2の時の3人で共有した秘密から、どこか仲間意識が芽生えていた。
私も舞も爽子を裏切らなかったし、彼女達はきっと──私への気持ちは好意であっても"恋"ではないと気付き、そして自分達のしたことは女同士の愚かな張り合いだと認めたのだ。
爽子は早い段階で私の変化に気づき
"八ツ柳さんのこと本気なら、連くんを応援するよ! ガンバレ!"
と言ってくれていた。
そして舞は自分の経験を話し、"雨宮英里や近藤アイナには気をつけて"と忠告してくれていたのだ。
忠告をもらってはいたのに、私はメス同士の競い合いは軽く見ていた。彼女達がここまで残虐になれるのを計れなかったのは見誤りだった。
だが事前にこうしたやりとりはあったから、2人は今回の修子のことを聞くとすぐに動いてくれた。
爽子は女子バスケットボール部で知り合いだった今井景子が、阿久津に片想いをしていたことを見抜いていたので、すぐに連絡をとった。
舞は修子に連絡して、同じ目にあった内容を確認した。
私は男子バスケットボール部のメンバーに相談し、それからあとは修子の両親と────
他の生徒達も登校し始め、中庭の周りの廊下やベランダにザワザワと人が集まりだしていた。
追い詰められた英里は涙目でうったえた。
「私は……私はただ連くんが好きだったの!! 好きだったのよ!! だから許せなくて…………だって……」
彼女は肩を震わせた。持っているジョウロが揺れて水がこぼれる。
「何で私が負けなくちゃいけないの!? あんなウナギ女よりも……私の方が絶対 可愛くて綺麗でしょう!? 私を! 好きになってよ!!!!」
彼女の最後の言葉は叫びだった。
私は真実を述べた。
「僕には雨宮の外見は価値がない」
価値があるのは八ツ柳修子の"恋心"だ。
英里の瞳から涙がこぼれたが、容赦はするつもりはない。
「八ツ柳さんのご両親は警察に届けた」
3階ベランダではアイナが息を飲んでいた。
「君たちは八ツ柳さんを引きづり押さえ込んだ。病院でその時のアザは確認できてる。写真も撮った。
不登校の原因は いじめによる精神衰弱だと精神科医の診断書も もらえた。あの髪を見たらね、医者も早い判断をしたらしいよ」
英里はガタガタと震えだした。
──今更だった。後悔も悟りも遅すぎる。
「八ツ柳さんの私物の勝手な投棄、教科書のいたずら書きについては、彼女の日記から少なくとも中学で40回以上あったと記録があるし、証拠の残っているものもある。
人の学用品を捨てたり靴を隠すのって──持ち主に断らないで持ち去った時点で窃盗じゃないかな? 僕はそう みなすね。メガネは明らかに器物損壊だよ。それから脅迫も沢山している」
ジョウロの水はこぼれ彼女の手を濡らしている。震えがどうにも止まらないようだ。
仕方ないので私は英里の元に行き、ジョウロを引き取ってやった。そして間近で続けた。
「髪の毛だけなら傷害罪にはならないと思っている?……僕も凄く詳しいわけじゃないけど、暴行罪にはなるみたいだよ。しかも今って陪審制じゃない?
女の子の髪を切るって非道さと さほどの罪にならないと計算する ずるさが、むしろ心象が悪いんじゃない?」
英里は 私を恐ろしいものであるかのように見つめている。もしかすると彼女は今、あの夜の闇を見ているのかもしれない。
「いたずら? いじめ? その感覚、僕から見たら正常じゃないね。英里達がやっていることは────犯罪だろう?」
その問いかけに答えは不要だ。続きを告げる。
「刑事事件にはならなかったとしても、家庭裁判所は取り扱ってくれる。繰り返し行われているような場合は量刑が重いって。未成年でも裁判所に決められたら、更生施設に必ず入らなくちゃいけないそうだよ」
私はこの美しい顔の見栄えの良い──愛のない女に近づいた。
笑みさえ浮かべて 締めくくる。
「学校に来れなくなるね。 ───雨宮も」
雨宮英里は崩れ落ちた。
お読みいただきまして誠にありがとうございます。
人外でもあり、彼もまた未成熟であるが故にか まさしく容赦なく斬っていきました。(いや彼は何歳であっても容赦無いかも……)
この件のおさまりは、もう少し先があります。そして邪魔者を排除した連と修子の行末は……?
全18話予定です。あと残り4話ですね。
明後日(6月1日)投稿もよろしくお願い致します。m(_ _)m




