11 獲物の奪い合い
ー登場人物紹介ー
◆夜岸連・"恋心"を食事にする生き物。中学生3年D組。
◇八ツ柳修子・連に片想い。A組。
●雨宮英里・元男子バスケットボール部マネージャー。A組。
●近藤アイナ・雨宮英里の友達。A組。
●今井景子・元女子バスケットボール部員。C組。
八ツ柳修子はその翌日学校を休んだ。その次の日も。
付き合うことになって連絡先と住所はお互いに交換していた。そのおかげで私は2日目の放課後には、彼女の家に見舞いに行くことができた。
──胸騒ぎが…していた。付き合うとなって すぐに修子が学校に来なくなったことが。
修子の母親には"同じ園芸部で毎日親しくさせてもらっている夜岸と言います"と玄関で名乗った。
暗い顔で詰まったような声で、すぐに母親は助けを求めてきた。
「いじめだと思う。だってあんなに……酷いんですもの」
そこで、その人は悲しみを堪えてか唇を噛んだ。
「でもあの子は私達に、何があったかちゃんと話してくれないの。自分でやったのもあるって。それで……学校にも何も言えなくて……」
「僕から聞いてみます。──会わせて下さい」
そうして私は 変わり果てた"私の恋人"に再会した。
部屋のベッドにいた修子は顔の中央の──鼻にガーゼを当ててホワイトテープで止めていたため、まずしっかりと顔が見えなかった。
だが髪の毛が酷い状態なのは一目瞭然だった。全体的に長かった髪が短くなっていることは確実で、そして長さは全く合っておらずにバラバラだった。
「何があったの……?」
尋ねると修子は泣き出した。私が部屋に入ったときから泣きそうにはしていたので、そうなるだろうとは思っていた。
私は立ったまま修子の上半身を抱き寄せた。
──いくらなんでも喰う気は湧かなかった。
センチメンタルにこちらがなったわけではなく、修子の深い悲しみは彼女の"恋心"まで覆ってしまっていた。
確かにそこにあるのに、不味い不純物のカバーをかけられているかのようだった。────全く良くない状態だと内心 舌打ちした。
やがて修子を落ちつかせて、ようやく話を聞くことができた。
以前からクラスでは嫌がらせや からかいに遭っていたこと。
私と親しくなってからは酷くなっていたこと。
そして、2日前に雨宮英里や近藤アイナ達に押さえつけられてポニーテールを切られたこと。
最後に"誰かに言ったら髪だけじゃ済まない""もう学校に来るな"と脅されたこと。
メガネは揉み合いの中で落ちて、それを踏まれて壊されたこと。──眼の悪い彼女はそれでもメガネを探そうとして段差で足を踏み外し、転んで鼻を強打したこと。
修子は"もう学校には行かない"と言った。"あの人達のいる学校には怖くて行けない"──と。
それから彼女は何故か 私に謝った。
"私みたいなのを恋人にしてくれたのに、こんなことになって本当にごめんなさい……"と。
そこで彼女が恐ろしいことに──別れようとしていることに気づいた。
修子は中学校生活と共に私との付き合いも終わらせようとしている。
そんな決断を、こんな邪魔でするのは許せない
私は彼女の涙の流れる頬に手を当てて、甘く優しく囁いた。心を込めて──
「大丈夫だよ。僕が守るから」
修子はあまり見えてはいないはずの瞳で──それでも私を見つめた。
ゆっくりと彼女の頬から手を離し、立ち上がる。
部屋を出る時には
「話してくれてありがとう。──眠って」
と告げてドアを閉めた。
1階に降りていくと修子の母親と──父親とおぼしき人物もいた。
私は彼らに言った。
「修子さんに起こったことが分かりました。それから ご相談があります」
そこで3人で1時間半程 話した。
すっかり遅くなった帰り道で、携帯電話からさらに数人に連絡を入れた。
「…………凄く助かるよ。ありがとう」
最後の1人にそう言った。電話を切って改めて思った。
────これでいい
先に ハイエナ供を狩る 必要が あるようだ
"ヒトノ食事ノ 邪魔ヲ スルナ"
人でもないくせに そう本能の声が した。




