10 獰猛な刃
ー登場人物紹介ー
◆夜岸連・"恋心"を食事にする生き物。中学生3年D組。
◇八ツ柳修子・連に片想い。A組。
●雨宮英里・元男子バスケットボール部マネージャー。A組。
●近藤アイナ・雨宮英里の友達。A組。
●今井景子・元女子バスケットボール部員。C組。
※直接的な暴力・残酷行為の描写はありませんが、いじめの恐怖を感じさせる文章が後半あります。
ついに手に入れた…………!!!!
修子と付き合うことにやっとなり、私は歓喜していた。
数ヶ月に渡る攻防は長く──彼女が重いものを持つときや、髪が絡まっていると理由をこじつけては──触れる機会に"つまみ食い"をさせてもらっていた。
それだけでも腹持ちも経験がないほど良かった。味はとにかく美味い。
"世の中にこんな美味いものがあったなんて"というフレーズそのものだった。
喰い尽くした時には幸福感と満腹感は約束されているようなものだ。
"早く喰いたい早く喰いつきたい" と隣で唱えながらも、彼女は会う度にまた香りも性質もさらに向上していくので────毎日が面白くてたまらなかった。
彼女は一体どこまで美味しくなるのだろう。
間違いなく極上の"恋心"
最高級の"食事"
手に入れた
最高の恋人を自分は手に入れた────!
八ツ柳修子は、その日はじめてポニーテールに髪をまとめてみた。
母親にピンとヘアスプレーを借りて、綺麗にまとめるのには20分もかかった。が、納得のいく仕上がりにすることができた。
瞳や鼻のつき方や輪郭はどうしても──変えられない。今 出来ることの精一杯だった。
せめてもと鼻の穴が隠れる角度はないかと、鏡で必死に探す。
彼だけで……いい。彼から見られる時だけでも、少しでも、それほど悪くないとか……結構マシとか……か、かかかかか可愛いかも……とか思ってもらえた…なら。
"恋人だから"
ああ、私に"恋人"ができるなんて……夢みたい
夢なら醒めないでと昨日からずっと祈っている
こんな私に あんな素敵な彼氏が出来るなんて
人生って なんて 素晴らしいんだろう!
「修子ー!! 学校遅れるわよ! いつまでも鏡の前でニヤニヤしないの!」
母親の苦笑混じりの声に、修子も笑いながら返事をして、スキップのような足取りで玄関から出た。
幸せな気持ちは校門の前で止められた。
複数の女子生徒の群れに行く手を阻まれたのだ。
見たことのある顔ばかりだった。同じクラスの雨宮英里、近藤アイナ、それにバスケットボール部だった頃に夜岸くんを取り巻いていた……女子達。
「八ツ柳さん、ちょっといい?」
雨宮英里の言い方と眼差しがすでに憤怒と憎悪を伺わせた。
修子はただ──断ることも出来ずに立ち尽くす。
両脇を他の女子達が囲み背の低い修子を持ち上げるようにして引っ張った。
「わ、私は行きたくない……!」
一度だけだが修子は声を上げた。が、耳元に近藤アイナがささやいた。
「拒否する権利なんかないのよ、人間以下」
ショックと恐怖で言葉が出なくなる。
あとは引きづられるかのようにして、修子は連れ去られた。
「居るだけで気持ち悪いのに、あんたが連くんの彼女? ふざけるんじゃないわよ」
「ちょっとちょっとぉ、ポニーテールだって。少しは可愛いくしたつもりなのコレ? みっともなぁい」
校舎裏に連れて行かれ、押さえつけられて髪を つかまれた。まとめたピンは飛び、髪が乱れる。メガネが落ちると
バキッ
という音がして
「アラごめんなさい。わざとじゃないの。落ちていたものだから踏んじゃった」
という雨宮絵里の声と、周囲からの笑い声がした。
「じっとしていなさいよ、ヤツメウナギ」
修子はメガネが無くてほとんど分からなかったが、英里が何か道具を出して自分に向けているのは分かった。
逃げようとしたが、複数の手がそれを邪魔する。
雨宮英里の手には裁ち鋏が握られていた────




