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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第四章 名の呪い

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第4章(6)器

秋の空は高い。

夏のような力はない。ただ、澄み切っている。


四十年前、龍騰が初めて手がけた大規模インフラの初期開通区間。

高速道路と橋梁が、川をまたぐ。

当時は誇りだった構造物は、いま、静かに老いている。


足元のアスファルトに細いひびが走る。

その下に、空洞。

検査ハンマーの打音が鈍く返る。コン、コン——軽く響く箇所。内部が浮いている。

落下音がひとつ過ぎ、地中を撫でるカートが静かに路面を曳かれていく。


橋脚の基部には、わずかなひずみ。

計測値は許容範囲内。だが、歪みは歪みだ。

現場ではセンサーの取り付け作業が進んでいる。

貼り付けられたセンサーのLEDが、赤い点をひとつ灯す。


新設されるITS制御室の基礎も立ち上がり始めていた。

管路に通された光の線。制御卓の架台が据え付けを待っている。


粉塵が光の中を漂う。


ネクサスの都市OSを実装し、この区間をアップグレードする計画。

数字も、法も、整っている。


——だが。


昊天は橋の中央で立ち止まる。

そこだ。四十年前、父が立っていた位置。

写真で見た。竣工式。スーツ姿の父が、空を背にしている。

その隣で、幼い自分が抱き上げられていた。


あの日の光は、夏だった。

強い光。すべてを肯定する光。


「昊天」

父の声。


——崩れるな。

——見下ろすな。

——空のように在れ。


名を与えられたとき、意味も知らなかった。

だが、その音だけは、骨の奥に残っている。


昊天は橋脚に触れる。冷たい。

鋼材のわずかな振動が、掌に伝わる。


道路は崩れる。

放置すれば、空洞は広がり、ひびは連結し、やがて落ちる。


家も同じか。

跡継ぎ。養子。血の継承。

崩れかけているのは、構造か、関係か。


粉塵が舞う。秋の空は高い。

夏のような力はない。万物が収束へ向かう季節。

旻天びんてん——澄み切った天。だが、衰退の始まりでもある空。


昊天は空を見上げる。

父は、この空の下で、自分に名を与えた。


天。父。家。社会。

そのすべてを受け止める器。

器は、個人ではない。割れなければいい。中身がどうであれ。


——その理屈の温度で、名は自分の上に置かれていたのだと気づく。

祝福に見える形で、長いあいだ、命令だったのだ。


「昊天」という名は、空であれと命じる。崩れるなと命じる。

だが、空は孤独だ。誰にも寄りかからない。


昊天は視線を下ろす。

ひび割れ。空洞。ひずみ。

構造は正直だ。負荷がかかれば、形に出る。

人間だけが、無傷の顔をする。


風が吹く。粉塵が流れる。

センサーが取り付けられていく。都市はアップグレードされる。

だが、名はアップグレードできない。


昊天はゆっくりと歩き出す。

測定値を確認し、次の工程を指示する。声は冷静だ。いつも通り。空のように。


だが、胸の奥で、初めて言葉になる。


——俺は、器なのか。


秋の空は、何も答えない。ただ、高い。

橋の下で水が光り、取り付け終えたセンサーの赤い点が、ひとつだけ呼吸している。

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