表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第四章 名の呪い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/86

第4章(3)駒

長老会からの「養子案」という名の包囲網。

その余韻を引きずったまま、昊天と昊明は庭園の東屋あずまやにいた。

中秋節の飾り付けがなされた屋敷。ランタンの明かりが、池に反射して揺れている。


「兄さんが夕食会に来なかったから、奥さん年寄り連中から『子ができないのはどっちのせいだ』ってさんざん探り入れられてた」


昊天が目を見開く。全身に血が駆け巡るような気がした。

「家」を旗印に、どこまで土足で踏み込めば気が済むのか。


「ひでえなって思ったけど、俺は、ここでは、部外者だから」


池に映るのは欠けた月。

昊明が足元の小石を蹴る。ぽちゃり、という音が響く。


「あのご老人たちが揃って俺たちを呼び出す理由なんて、一つしかない。

『李家の血を絶やすな』

……で、ターゲットは俺のところの次男坊、ってわけだ」


昊明は自嘲気味に笑い、ポケットから煙草を取り出そうとして、

ここが本宅であることを思い出して手を止めた。


「検討します、ってどういうことだよ。商談の場じゃないんだぞ」


珍しく、語気荒く昊明が問いかける。


「やっぱり汚れ仕事は俺に回ってくるよね」


語気の強さの反面、その目は澄んでいる。


「兄さんを守るために叔父派を監視し、身内の不満を吸い上げ、

今度は自分の息子を『スペア』として差し出せ、か。

李家の後継者……傍系の次男坊には、悪くない話だけどね」


昊天は何も言わない。

昊明の言葉は、皮肉に満ちていた。

だが、それは昊天への攻撃ではなく、自分たちを「部品」としてしか扱わない、

「家」というシステムへの毒だった。


「兄さんはどうするつもり? 長老会はもう、外堀を埋め始めてる。

銀行も譜代も、『直系の安定』を期待している。

兄さんがネクサスなんていう『浮ついた事業』をやるなら、せめて足元を固めろってさ」


「……そのために、お前の息子を駒にしろと言うのか」


昊天の声が低く響く。


昊明はゆっくりと立ち上がり、昊天の正面に立った。

いつもの「弟分」の仮面を剥ぎ取り、一人の父親としての、

あるいは一人の男としての顔で、兄を見据える。


「兄さん。……駒にするなら、自分の手でやってよね」


その言葉は、冷たい刃のように昊天の胸に突き刺さった。


「血を守るためだとか、家のためだとか、そんな綺麗な理由エクスキューズはいらない。

兄さんが、自分の覇道のために、あの子を李家の呪縛に引きずり込む覚悟があるのか。

……兄さん自身が『当事者』として、あの子の人生を奪う決断を下してくれ」


昊明の瞳には、覚悟があった。

兄を守るために自分が汚れる準備はできている。

だが、その決断を、幼い息子に肩代わりさせるつもりはなかった。


昊明は、軽く昊天の肩を払い、屋敷の正門に向かって歩き出した。

一人残された昊天は、拳を固く握りしめた。


誰もが自分に「役割」を求める。

長老は「器」を求め、役員は「象徴」を求め、昊明は「覚悟」を求める。

だが、李昊天という一人の男が、何を望み、何を愛しているのか。

それを問う者は、ここには一人もいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ