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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第四章 名の呪い

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第4章(1)若様という檻

「——以上が、Smart Nexusによる資産価値の再定義、

および『稼働の透明性』がもたらす信用補完のスキームです」


龍騰大厦の役員会議室。

昊天がプレゼンテーションを終え、手元のタブレットを置く。

だが、巨大な円卓を囲む男たちの反応は、静まり返った水面のように冷ややかだった。


そこに座っているのは、祖父・国梁が「土地と汗」で龍騰を築き上げ、

父・承天が全国区に押し上げた時代を知る役員たち。

そして、「鉄とコンクリート」で全国に張り巡らせたインフラを担保に、

巨額の融資を決めてきた主力銀行の幹部たちだ。


彼らにとっての龍騰は、目に見える「物理資産」の集積体だった。


「総裁……。お言葉ですが」


沈黙を破ったのは、筆頭役員だった。

彼は、昊天が提示した最新の運用データには目もくれず、慈しむような、

それでいてひどく冷淡な笑みを浮かべる。


「その『目に見えないインフラ』とやらが、我々が守ってきた港湾や道路より価値があるとおっしゃるのか。

……昊天様は、少々、夢を見すぎるきらいがある」


『昊天様』。総裁、ではなく。

39歳。市場の冷たい視線をくぐり抜け、数千億規模の敵対的買収を沈黙一つで粉砕した男に対し、

彼らは依然として「名」で呼ぶ。


それは敬意ではない。


「お前はまだ、我々が築いたシステムの上に生かされている子供に過ぎない」という、

血脈による呪縛の通告だった。


「融資の判断としては、やはり現物ハードの進捗が条件になりますな」

銀行の担当者が、追従するように手元の資料を閉じた。

「データの運用手順やアルゴリズムなどという数式に入らないものは、担保にはなり得ません。

我々が信じているのは、あくまで『インフラの龍騰』であって、ネクサスという異物ではない」


昊天は無表情のまま、彼らを見据えた。

彼らはネクサスを「若造の道楽」だと切り捨てている。

なぜなら、それを認めてしまえば、自分たちの既得権益——

「土地と利権」という古いOSが、昊天の創る新しいOSによって

上書きされてしまうことを直感的に恐れているからだ。


この李家という内側のシステムにおいて、

昊天はただ、彼らが勝手に投影する「期待値の総和」を演じさせられる人形に過ぎない。


会議室を出ると、菲菲が無表情で隣に並んだ。


「……各方面の『空気』が、一斉に硬化しています。銀行団だけではありません。

役員の一部も、ネクサスを『家業からの利益切り出し』だと不満を示しているようです」


「わかっている」


昊天の返事には、感情が欠落していた。


(崩れるな……か)


一瞬、父の声が遠く耳に響いた気がした。


李家。龍騰。市場。社会。名。

それらすべてのシステムが、一斉に昊天を「定義」し、檻の中に押し込めていく。


「総裁。先ほど、本宅へ顔を出すようにと連絡がありました。

奥様は夕食会のご準備で、先にお屋敷入りされています」


「ああ」


昊天は、窓の外に広がる上海の街並みを見た。

ネクサスのデータが流れる完璧な動線。


だが、その光の回路の中に、李昊天という「個人」の居場所は、まだどこにもなかった。

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