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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第3章 知夏編

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第3章番外 兄さん、ここでもひとりなの?

##昊明視点/1993年夏、スイス・ボーディングスクール


入学初日の午後、

俺はスーツケースを引きずりながら、

古い寮の廊下を歩いていた。

廊下からは英語、フランス語、ドイツ語が入り混じる声が聞こえる。

それだけで、ここが“外国”だと思い知らされる。

でも俺には、ここに来た理由があった。


——兄さんだ。


一族の方針で兄さんがこの学校に送られたと知った時、

胸がざわざわして、居ても立ってもいられなかった。


李昊天。

俺の大事な、大事な兄さん。

正確には母方のいとこだけど、兄弟のように育った。


その兄さんがスイスに来てもう二年。

伯父さんが現場で倒れて亡くなって、

上海からの家から追い出されるようにひとり外国にきて。


兄さんはどんな顔をして過ごしてるのか、

笑ってるのか、

ちゃんと寝てるのか、

俺はずっと、気になって仕方なかった。


だって兄さんは、そういう人だ。

痛くても黙る。

苦しくても言わない。

助けを求めたことなんて、一度もない。

だから——俺が来た。


兄さんをひとりにはしないために。


兄さんの部屋の番号を確認して、

俺はノックしようと拳を上げた。


……やめた。


こんなの違う。

俺らしくない。

兄さんらしくもない。

だから、勢いよくノックを連打した。


「兄さーーん!! 昊明でーす! 来たよー!」


廊下がわずかに揺れるほどの大声。

でも無反応。


まぁ、そうだろうね。

兄さんは昔から“気配を消すのがうまい”んだ。


屋敷でも、部屋はいつも凍ったみたいに静かだった。

俺はノックを続けた。


「ねえ兄さん、俺15歳になったの!成長したの!すごくない?

てか聞いてる?聞いてないよね!? 開けてよ〜!!」


廊下の奥から外国人に睨まれる。

でも気にしない。

だってこれくらいしないと、兄さんは絶対出てこない。

一週間でも一ヶ月でも、叩き続けてやる。


その瞬間——

ガチャ、と音がした。


ドアが少しだけ開き、

兄さんの鋭い黒い瞳が覗いた。

「……昊明。」


低い声。

表情はいつも通りの無愛想。

でも俺は知ってる。

兄さんは驚いたとき、

わずかに眉尻が下がる。


「うわ〜兄さん!元気!? 会いたかった!!」


勢いよく抱きつこうとしたら、

兄さんは寸前で避けた。


「触るな。騒ぐな。」

「はいはい兄さん〜、変わらないねぇ〜!」


俺は笑ってみせた。

すると兄さんは目を細め、小さくため息をついた。

その表情が、俺の胸に刺さる。


(あぁ……兄さん、やっぱりここでもひとりなんだ)


寮の部屋はきれいに整えられていたが、

無味乾燥で、人の匂いがしない。

机の上には教科書だけ。

壁には何も飾られていない。

兄さんは二年もここにいるのに、

旅人みたいな部屋だった。


「兄さん。夕飯、一緒に行こうよ」

「……行かない。」

「じゃあ俺ここに住む!兄さんが出てくるまで一生ここに立ってる!」

「帰れ。邪魔だ。」

「む〜り!」


兄さんは額を押さえた。

俺はそこではじめて、

彼の横顔が少しだけ崩れるのを見た。

ほんの一瞬、

迷ったように、困ったように、

“どうしたらいいか分からない子ども”みたいな表情。


ああ、兄さん。

兄さんは“人とどう距離を縮めるか”を知らないままなんだな。


だったら教えてやるよ。

俺が兄さんに、友達の作り方を全部教えてやる。


俺は手を伸ばし、

兄さんの腕を引っ張った。


「行こ!」

「……うるさい。」


それでも兄さんは、抵抗しながらもついてきた。

廊下に出た瞬間、

兄さんの肩がわずかに強張る。

人の気配に敏感な兄さんらしい。


「大丈夫だよ兄さん。俺がいるから!」


兄さんはじろりと俺を見た。

怒ってるんじゃない。

呆れてるんだ。

それでもいい。

それでいい。

だってその目の奥には——

ほんの小さな安堵が見えたから。


(兄さん。

ここから始めよう。

俺が、兄さんの“青春”にしてやる)


俺はそう思いながら、

兄さんの腕を軽く引いて、

夕食の食堂へ向かった。


その夜、

兄さんは何も言わなかったけれど、

俺の隣に座ってくれた。

その事実だけで十分だった。

兄さんの孤独に、

小さなヒビが入った瞬間だったから。

昊明との青春の一コマ。

昊明少年よ、大丈夫!兄さんは数年後、ハーバードの文学少女とアパートでチューしてるから!!笑

次回から始まる第4章「名の呪い」では「大事な、大事な兄さん」であるはずの昊天に、昊明が最後通牒を突きつけてしまいます。2人はまた、元通りの仲に戻れるのでしょうか。

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