第3章番外 ボストンの秋
1997年秋、アメリカ・ボストン
ボストンの秋は、紅葉が街を染めて美しかった。
キャンパスで、昊天はいつも一人で図書館の隅に座っていた。
スイス時代に昊明に引っ張られて少し社交的になったはずなのに、
アメリカに来てからはまた壁を作り直していた。
本を読むか、講義に出るか、それだけの日々。
そんなある日、隣の席に座った女の子が声をかけてきた。
「いつもここにいるよね。一緒に勉強しない?」
エマだった。
韓国系アメリカ人で、文学専攻。
明るい笑顔と、肩にかかる黒髪が印象的だった。
昊天は無視しようとしたが、エマは毎日隣に座るようになった。
「私、エマ。よろしくね。」
昊天はため息をついて、
「……好きにしろ。」
とだけ返した。
それから、エマは昊天を少しずつ外の世界へ連れ出した。
カフェでコーヒーを奢ってくれたり、
キャンパスを一緒に歩いたり。
昊天は最初、面倒くさかった。
でも、エマの笑顔が昊明の笑顔を思い出させて、
少しだけ、心の壁が緩んだ。
ある夜、エマのアパートで初めてキスをした。
エマが昊天の頰に手を当てて、
「昊天、もっと近くに来て。」
と言った瞬間、昊天は自分から唇を重ねた。
エマの唇は柔らかくて、甘かった。
「昊天……好き。」
と囁いた。
かわいい。大切にしたい。
でも、心のどこかで、
(俺は……この人を幸せにできない)
と思っていた。
関係は半年続いた。
昊天はエマの髪を撫でながら、
「……お前は優しいな。」
とだけ呟く。
エマは笑って、
「昊天は優しいよ。
ただ、もっと自分を許してあげて。」
と言った。
でも、昊天は許せなかった。
卒業直前、エマに別れを告げた。
「俺は……お前を幸せにできない。」
エマの目から涙がこぼれた。
「……そんなことないよ。私、幸せだった。」
昊天はエマを抱き締め、
「……ごめん。」
とだけ言って、アパートを出た。
エマは追いかけてこなかった。
昊天はボストンの街を、一人で歩いた。
ラクロス部のエースに嫉妬していた昊天さんも、青春の恋はあったのですね。
しかし、近づく→壊れる→逃げる、ってパターン。若いときから変わりませんね。




