表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第3章 知夏編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/86

第3章番外 「その、ラクロス部だが」

きっかけは些細なことだった。


妻がアルバムを引っ張り出してきたのは、夕食後のことだ。

留学時代の写真だという。


ラクロスのユニフォーム姿の妻が、仲間たちと肩を並べて笑っている。

昊天はそれを横から覗き込み、しばらく、黙って見ていた。


そのとき妻が、一枚の写真を指差した。


「あ、この人男子ラクロス部で。ちょっとだけ付き合っていたの」


昊天の思考が、止まった。


「背が高くてね、エースで——」


妻は楽しそうに笑いながらページをめくった。

昊天は何も言わなかった。言えなかった。


---


翌日。

定時を三十分ほど過ぎた頃、菲菲はデスクの上の書類を静かに揃えながら言った。


「明日の朝一番にご確認いただく案件はこちらに。本日分はすべて片付いております」


それだけだった。


昊天は顔を上げ、菲菲を見た。

彼女の表情はいつも通り、何も読めない。

ただ、「片付いた」という事実だけが空気の中に置かれていた。


彼自身、今日何を見ていたかわからなかった。

書類に目を落とすたびに、昨夜の妻の声が戻ってくる。

楽しそうに笑いながら写真を指差す、あの声が。


「……わかった」


昊天は立ち上がった。それ以上ここにいる理由は、確かになかった。


菲菲は深く一礼した。彼女の目が一瞬だけ、その背中を追った。


(何か、あった)


それだけだった。


---


小猫が夕食の片付けを終えて一階へ戻ったあと、リビングはしんとした。


妻はソファに落ち着いて、カップの紅茶を一口飲んだ。


夕食の間、昊天はほとんど口を開かなかった。

料理に手をつける速度も、いつもより遅かったような気がする。

食べ終えるとすぐに「少しやることがある」と言い残して、廊下の奥に消えた。


小猫が「旦那様、今日は元気がなかったですね」とぽつりと言った。


そういえば、そうかもしれない。

お茶の二口目を飲もうとしたとき、書斎の扉が開く音がした。


昊天が戻ってきた。まだ十五分も経っていない。

妻は顔を上げた。


昊天はソファの前に立ち、少し間を置いてから言った。


「その……ラクロス部だが」


妻は、一瞬、何の話か分からなかった。


ラクロス部。


——ああ、昨日の。


「……あなた、まだ気にしていたの」


堪えようとしたが、無理だった。口の端が上がり、肩が小さく震える。


昊天は答えなかった。


「ごめんなさい、でも——」


笑いをこらえようとするたびに、こみ上げてくる。

昨夜の昊天の顔を思い出した。

あのとき、何か変だとは思っていたが。


「そんなに気になったの」


「……別に」


「別に、じゃないでしょう」


昊天は視線をわずかに逸らした。

それがまた、妻の笑いに火をつける。


「ごめんなさい、あなた、かわいくて——」


「かわいくはない」


即答だった。


妻は今度こそ堪えきれず、笑い声をあげた。

昊天は口を引き結んだまま、ソファの反対側に腰を下ろした。

妻から、少しだけ遠い場所に。


「……怒った?」


「怒っていない」


「顔が怒ってる」


「怒っていない」




♪書斎に戻って15分、あなた真剣な目をしたから~

仕事と思えばラクロス部なの 星屑ロンリネス

きっと愛する人を大切にして知らずに臆病なのね

兄さん情緒が、乱高下~

すれちがーいや、まわりみーちを

あと何回すぎたら 2人は触れあうの~

タッチ、タッチ、ここにタッチ

あなたからー

手をのばーして受けとーってよ

ため息の数だけ束ねた ばかでかブーケ~♪



ラクロス部のエース vs 覇道総裁。

昊天さんの嫉妬、耐久時間わずか十五分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ