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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第3章 知夏編

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第3章番外 顔

(承前)


車が静かに走り出す。


アーロンは車窓を流れるシンガポールの夜景を眺めながら、 スマホを取り出した。


妻からのメッセージが一つ。 「今日は遅くなる?」


いつもと変わらない、短いやりとり。 車が信号で止まる。


(......あの顔)


昊天の私邸での食事会。

夫人を紹介され、「あの薔薇の」と言いかけたとき、あわてて遮った昊天の顔。

アーロンは何度も昊天と仕事をしてきた。

冷静で、合理的で、完璧な男。

でも、初めて見た。


家同士の結婚という入り口だったはずなのに、

いつの間にか、合理では説明できないものを手に入れた男の顔。


(......いい顔だ)


スマホの画面が暗くなる。


(俺も、妻を愛してる)


それは嘘じゃない。

学生時代から一緒で、 お互いを尊重して、 仕事も理解し合ってる。

完璧なパートナーだ。


でも。


(俺は、あんな顔をしたことがあるか)


信号が青に変わる。 車が動き出す。


アーロンは、もう一度スマホを見た。


「今から帰る」 短いメッセージを打つ。


妻も短く返してくる。 「わかった」


それで十分だ。 それでいい。

......はずなのに。


(男なんて、時々どうでもいい夢を見る)


自分で苦笑して、スマホをポケットにしまった。


窓の外には、高層ビルの明かりが、 どこまでも続いている。

学生時代から一緒で、 お互いを尊重して、 仕事も理解し合ってる、愛する妻。

十分幸せ。それなのに、「あんな顔」をするほど情熱をかきたてられたことはない―――。

アーロンのそんな、ちょっとした心の隙間。

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