第3章(6)あきらめない心
編集部から届く封筒は、週に一度のペースだった。
毎回きちんと揃えられた雑誌と、短い企画メモが同封されている。
「また、例の記者からのアプローチ?」
昊明が執務室のソファで、遠慮なしに封筒を開ける。
口元は笑っている。
「よくやるよねえ。無視されてるの、分かっててさ」
雑誌をぱらりとめくり、ばさりと昊天のデスクに置く。
隣で立っていた菲菲は、視線を落としたまま淡々と告げる。
「排除しますか?
受付で止めれば、今後ここには届きません」
昊天は答えない。
——財経通訊。
ページをめくる理由はない。
ただ、そこにあったからだ。
小さなコラム。
市場分析でも、企業評価でもない。
再開発地区の動線と、朝の渋滞の話。
保育園の送迎時間が、信号制御一つでどう変わるか。
数字は少ない。
だが、街の輪郭がある。
(……生活する側の目線だな)
昊天は、表情を変えずにページを閉じた。
「排除はしなくていい」
菲菲が、わずかに顔を上げる。
「では、対応は?」
「対応もしない」
昊明が肩をすくめる。
「じゃあ放置?」
「違う」
昊天は立ち上がり、窓の外を一瞬だけ見た。
高架の向こう、午後の上海。
再開発地区がかすんだ向こうに見える。
数日後。
菲菲の指示で、ひとつの封筒が投函された。
差出人名はない。
中身は、登録制の一般公開イベント案内。
——龍騰智慧基盤(Smart Nexus)次世代都市運用セミナー
招待状ではない。
特別扱いもしない。
ただ、
“来るなら来い”というだけの紙切れだった。




