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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第3章 知夏編

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第3章(2)あるじの城

###菲菲視点


最近、総裁は帰宅が早くなった。


「この後の連絡は、緊急の用件だけにしろ」


そう告げて、一段落つけば自宅に戻る。

その日に片付けなければいけない案件があれば、自宅で対応しているようだ。

海外出張などで戻れない日は合間を見て電話をかけている。


守るものが、増えたのだ。


---


「こちら、懇意の経済記者にネクサスについてまとめさせたものです。

……公開情報ベースですが、現時点では十分かと」


総裁の自宅。上海の夜景を見下ろすペントハウスの来客用リビングで、菲菲は数枚の原稿を昊天に差し出す。


先日の記者会見で、昊天が「基幹技術は別法人」と述べたことで、

アジア圏の金融クラスタたちは、さまざまな観測を飛ばし合っていた。


「喂、総裁これ言ったのかよ。核心技術は別会社にあるって?」

「殻上場か?あの典型的なやつか!」

「子会社に核心技術があるからといって、必ずしも“殻上場”というわけではない。

RPT(関連当事者取引)の条件次第だ」

「子会社がIP(知的財産)を持つのは、アジアのインフラ・テックでは普通のこと。

問題はRPTによる利益配分だけ」


龍騰智慧基盤有限公司(Longteng Smart Nexus)――通称、ネクサス。

昊天が推し進めるスマートシティー事業の“本丸”だ。


龍騰グループの未来は、ネクサスの中にある。


まずIR主導で独立取締役にネクサス設立の経緯を説明させ、併せてなじみの記者に解説記事を書かせる。

昊天は、矢面には立たない。


「申し訳ありません。どうしても今日中に確認してほしいとのことで」


昊天はうなずき、静かに紙面に目を落とす。

菲菲はめったに、ペントハウスには立ち入らない。

訪れたとしても、一階のみ。

ここはあるじが築いた城。

それは、暗黙のルールだった。


小猫が紅茶の入ったカップをテーブルに置き、滑るように退出する。


まるで、猫のようだ。


「問題ない」


昊天から戻された紙面を、封筒に入れて立ち上がろうとしたとき。


「遅くまでお疲れさまです」


二階へと続く階段から、妻がゆっくり下りてきた。


けして越えてはならない境界の内側から、誰かが出てくるとき。


――胸の奥に残っていた熱は、

理由もなく、すっと冷える。


昊天はちらりと妻を見て、何事もないようにスマホのメッセージを確認している。

妻は、菲菲を玄関まで見送った。


「いつも、ありがとうございます」


妻は、静かに声をかけた。

菲菲は目礼し、扉を開けて外に出る。

4月だが、夜はまだ少し冷える。


(私は、あるじの城を、守ろう)


高層マンションのエレベーターは音もなく、下界に向かって滑り下りていった。

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