ヨンヂュウシチ、もしくは、去らば友よ、我は行く漠然とした旅路へ
私とスティーブンスは各々が落ち着きの無い様子で気を紛らわせるために酒を呷ったりしながら一日を過ごす事となったし、ダインは気の入らない様子で一日の業務をこなす日となっていたらしい。
その日の夜はベッドの中でしばらく考え事をする私の癖が出ていた、それはこれで本当に私の伝承者としての人生は終わってしまうのだろうかだとか、だとすればこれからの私は何処へと向かうべきなのかということだった、私はやはりまだ人生を輝かせていたいと考えている部分を抱えていた、そこで私は更に考えた、一度“誠実にやってみる”というのはどうだろうか、つまり私ならば聖竜信仰教の魔道士として魔法を限界まで習得し、その魔法を活かした生き方に挑戦してみるといったものである、どの程度までやれるものかは未知数だが、挑戦する価値はあるような気もするのだ、それは“こういった世界に転生してきた者の生き方としては”実に王道なやり口だと思った、しかし、どうだろうか、私は今までに私なりに誠実に努めてきたつもりもあるのだ、これがある種のわだかまりのようになり私の思考を鈍らすのだから実に始末に負えない。
それからも様々な手を考えてみたのだが決定打となるような目的と呼べるものには辿り着かず思考だけが頭の中を回り続けた、その中でふと考えたことはやはり勇者の事だった、勇者の「七色の顔」なるものを一度でも拝めば私の中の何かが変わるのではなかろうかと考えたのだ、当面の目的も定まらない上に逃亡犯となった私にとってのそれは何かしらの人生の前進に携わるイヴェントのように思えた、だから私はとにかく今は眠りについて明日の勇者一行のカウレス来訪のパレードの見物に行こうと考えた、私は今後の人生をより輝かせるための準備期間であったり何かしらの理由であったりするものが勇者の「七色の顔」を拝む事にある気がしたのだった。
翌朝は窓の外の通りを行くバンドのけたたましいまでのディキシーランド・ジャズの音色で驚くように目が覚めた、窓からその通りを覗くとバンドの周りにはカウレスの街中の光教の僧侶たちが道を聖水で浄化させながら練り歩いている姿がある、あの聖水が手に入っていれば今週の土曜の夜も私やスティーブンスは伝承者として混頓会場電撃戦を開催し、悠然と振る舞っていたに違いないと思うとあまり私の心は穏やかなものではなくなった、その心境は怒りや悲しみよりも寂しさに似たものだった、それは混頓会場電撃戦の未練そのものでもあった。
私が寝室から出て教会の一階にあるリビングのような部屋へと降りるとそこにはダインがいた、彼は勇者一行の来訪のパレードに参加することになったらしく、それに紛れてカウレスの外へと出るのだそうだ、また、スティーブンスは私より五分ばかり遅れて寝室から降りてきた、やはり通りを行くバンドの騒音で起こされたらしく、幾分と顔が腫れぼったく寝起きの表情をしていた、彼はパレードを見送る事なく街に人が溢れている最中を利用し街を出でリトルベルへと向かうらしい、スティーブンスは「ジョニサン、お前とは最高の夜を沢山過ごしたし、思い出も沢山できた、けれども、もう、俺は引退さ、混頓をやめてクリーンになるよ、そして、アイリーンと結ばれるんだ、リトルベルで小さな雑貨屋でも開くんだ」などと言って教会を一番最初に出て行った、彼はやっと幸せの在処のようなものを見つけたのかもしれないと私は思った、別れ際の彼の表情はスティーブンス・“ワイルド”・カーターなどではなく、ただの疲れた一人の男の姿だった、きっと彼も一晩中様々な事を悩み考えたのだろうとも思った。
次に教会を出て行くのは私だった、私はダインに手持ちの混頓を手渡そうとしたが彼はそれを拒否した、ダインは「僕も混頓をやめてクリーンになりますよ、生まれた漁村に帰って一から信仰について考え直す時間が必要なんです、ジョニサン、僕たちの日々は短くて狂っていたけれども、良い思い出でしたね」と言った、彼は彼なりに考えて吹っ切れた様子で私に微笑みかけてくれた、ダインにしてもスティーブンスにしてもクリーンになることはできるのだろうか、それは当人らの精神の強さによるものだ、私はどうだろう、この先も混頓と付き合って行くのかどうか、その判断も兼ねて勇者の「七色の顔」なるものを拝もうかと思った、私はダインに短い挨拶をして教会を後にした、街は勇者一行の来訪のパレードに浮かれた人々で溢れていた、魔王の脅威が健全な最中だからこそ、勇者の来訪とは実にめでたいもののように扱われていた、私は勇者一行が通るとされるアスジャン通りへと向かって歩き始めた、先ほど読んだ朝刊によればマリオン・“セヴン”・メイヤー殺しの犯人は未だに特定がついていないらしい。




