ヨンヂュウゴ、もしくは、失楽の始まりに踊り嘆く愚か者ドモ
その日の日中に問題は起きた、なんといつもダイン・ロバートソンが横流してくれていた光教の聖水が勇者の来訪する際に通る道を清めるために使われるらしく、その在庫が欠品してしまったのだ、この唐突な問題に私もスティーブンスも頭を抱えた、光教の聖水は毎週の様にその区分にある光教の教会の中でも上位クラスの魔法を使えることができる僧侶が生成して分配するものでダインの実力では生成は不可能だ、普段は魔物のアンデット由来の病や呪いなどに効果を発揮するアイテムではあるが、これがなくては“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”を生成することは絶対に不可能なのだ。
混頓会場電撃戦の夜以外にも普段から混頓中毒者どもに施す分を見ても在庫が明らかに足りないと来ている、スティーブンスのオリジナルの混頓である“セイレン”の在庫はあるが生成できるのはスティーブンスのみでその生成する数にも限界がある、「こう言う時こそクールに考えろ」とスティーブンスは言うが良案は浮かばない、その中でダインがある提案をした、それは二区画先にあるカウレス最大の光教の教会である光聖殿なら在庫があるかもしれないというものだった、しかし、それでは明確に聖水を確保できるかは分からない、そもそも勇者一行の来訪のお陰でカウレスの街中で光教の聖水は在庫が欠品しているのだ、そこでスティーブンスが更に提案を追加した
「光聖殿に侵入し、聖水を強奪するしかない」
流石にその案には私もダインも反対した、幾らなんでも危なすぎる、今度の混頓会場電撃戦の開催は諦めようとも言ったが、スティーブンスの意思は固かった、今までに数多くの中毒者を生み出し、ダインに聖水を横流しさせて、スピアマン家の権力をも奪取し、もはや自分や私の伝承者としてのビジネスはずっと前にダーティーになっているのだとスティーブンスは言った。
「ただの少しデカい教会に盗みを働きに行くだけだ、警備員なんてものもいないはずだ」
「スティーブンス、私だって聖水が必要なのは分かっている、ただ幾らなんでもリスクがデカ過ぎる」
「ダインは聖水を生成できないし、天法典録団のスピアマン家に光教のコネクションは無い、まさか白昼堂々と光聖殿に行って混頓を作りたいから聖水を分けて下さいなんて言えるか?」
私はスティーブンスに言い負かされていた、それでも続けて彼は言う。
「ジョニサン、俺たちはもう既にダーティーなんだよ、逆に考えろよ、それは、つまりは…何でもありって事だ、ビビるな、クールに、そうだ、クールにやれば上手く行く」
彼は自分がカリスマで尚且つ自分の言葉には力があることを熟知しているのだ、確かにスティーブンスの言う通りなのだ、我々は既に汚れている、今までにだってかなり際どいことをしてきた、今度だってきっと…
「分かったよ、スティーブンス、君の案に乗るよ…」
私がそう言うとダインは頭を抱えて「光教神、おぉ、光教神…」と祈りを捧げだした、混頓とセックスにどっぷりと使った男の祈りをなど誰が聞くだろうか、スティーブンスはそんなダインを見て「よしてくれ、神様じゃない、俺たちが俺たちを救うんだ」と言った、それでもダインは祈りを止めることはなかった。
その日の深夜に計画は実行された、私とスティーブンスと、そして、最後まで計画に反対したダインをほとんど無理矢理説得して連れて、我々は光聖殿へとやって来た、その佇まいは表向きは荘厳極まりないなが、一歩裏路地を伝って裏口へ行くと錆びた門扉があるだけのものだった、それは施錠がされておらず敷地内に入ると木製のドアが一枚あり、それが施錠されているものだった、スティーブンスはそのドアを針金で意図も簡単に開けてしまうと足を忍ばせながら教会の中へと侵入した、事前に調べたところによると聖水は教会の地下の倉庫で管理されているらしい、私たちはその聖水がある地下倉庫を目指しつつ歩いた、石造りの強固な壁を伝い静かに歩を進めて行くと地下へと降りる階段が一つあった、私たちは多分それがその階段であろうと考えて降りるとそこで突然背後から「誰ですか!?」という声がした、振り返るとそこには一人の女の僧侶がいた、見つかったのだ、失敗である、逃げるしかない、スティーブンスが駆け出しその女の僧侶を突き飛ばすと彼女は頭を石造りの壁に強打した、そんなことは構ってはいられないのだ、私たちは一目散に光聖殿から撤退したのだった。




