ヨンヂュウシ、もしくは、勇者なる犬ドモに因縁をつけまつるわ、我に正義アリ
それから土曜の夜の乱痴気騒ぎは何度か続いた、特別な酒、特別な混頓、特別な人々という意識…それらはカウレスの上流階級やTHE CURTAINの選民性を刺激し次々と客を呼んだ、紹介制の秘密クラブのような雰囲気に人々は満足し、酒池肉林を貪りつつ混頓を吸引していた、彼らは自らの快楽に貪欲な獣のようでもあった、そんな人々の中でスティーブンスは一際輝いて見えた、いや、そんな人々の中だからこそ彼は鮮烈なカリスマとして光を放っていた、私はそんなスティーブンスを見ているのが楽しかった、かの天才と共に作り上げたこの混頓会場電撃戦を誇りにすら思っていた。
私はそんな乱痴気騒ぎの狭間で素面の人間を集めて話すことを好んだ、マックスなどは常に私の隣にいたが政治家という人種である以上、信頼は置いていなかった、リッチー・クレイブは新進気鋭の画家で、彼もまた私の傍らに座りながら芸術論を述べたりしていたが、その本性は実につまらない男にしか過ぎなかった、それでも刺激に飢えた自身のパトロンなどを新しい客として紹介したりしてくれた、しかし、その程度の男だった、リサ・プレシャスは寡黙な天法典録団の女で優秀な魔道士だがこの混頓会場電撃戦で乱れる恋人のミックを観ているのが好きなだけだった、 ミックはリサの年下の恋人で混頓中毒者の美貌の青年だった、彼は同じく美貌の青年らとセックスをすることを好んだ、リサはそんなミックを愛でていた。
そんなある夜の“素面組”の話題に勇者と魔王の話が上がった、それはこの世界に置いては実に社会的な話題であったが、伝承者として生きるようになってからは勇者一行の動向など気にもとめたことがなかった私にとっては実に新鮮な話題のように感じられた、何でも勇者一行は魔王との決戦を間近に控えながらも癒手だった僧侶の仲間を失ったらしい、それでいてここカウレスで新しい僧侶をスカウトしに来るという話を私は聞いたのだ。
確かにカウレスは聖地と呼ばれる程に光教の教会が犇めきあった場所で尚且つTHE CURTAINに属する上流階級の連中の中にも優れた僧侶はいるだろう、そういった点でここカウレスで新しい僧侶の仲間を探すというのは良い手なのかもしれない、しかし、だからと言って私たちのようなアンダーグラウンドに生きる人間に関わりがあることだろうかと私は疑問を隠せずにいたのだった。
そもそもこの世界における勇者とは何者なのかが疑問であった、たった数人の“一行”で魔王の軍隊を壊滅させ、山おも越える大きさのドラゴンを倒すような超人の集まりなどあまりにも現実味が無い、私が勇者とはそれほどまでに“凄まじい”ものなのかと率直な疑問を投げ掛けると普段は寡黙なリサ・プレシャスが「私は勇者一行を見たことがある」とだけ呟いたのだった、それは、つい数ヶ月前にリサが天法典録団の魔道士としてエスティス地方の魔物退治に駆り出された際に想定外の魔物の数に圧倒されていたその時に突如として助けに現れたのが勇者一行だったという、勇者一行は一瞬にして魔物の群れを一掃すると颯爽と去っていったという、その時に見た勇者の横顔をリサは「七色に輝いていた」と表したのだった、私は一種の比喩然としたその勇者の逸話にいまいち納得ができなかった、それは私自身が勇者という存在にいまいち懐疑的なものを持っていたからだった、そうなると私は逆説的に勇者に興味が湧いてきたのだ、是非ともその「七色の顔」とやらを拝んでやろうではないかという気持ちになったのだ、私はその事を考えるとその夜の混頓会場電撃戦における伝承者としての役割りに集中力を発揮できなくなっていた、勇者のその姿を見ることという一見小さな名目は私の胸の中に明確に突き刺さった“刺”のような何かだった。
翌日の朝刊にて勇者一行がカウレスの街に訪れるのは二日後らしいという記事を私は丹念に読んだ、もう既にカウレス側が斡旋する僧侶も決められているという情報まで分かった、やはりカウレスの街では光教の影響力が強いらしく、光教の僧侶であるマリオン・“セヴン”・メイヤーが選ばれた、彼女はこの地に“七代”続く光教の僧侶の家系で、経歴や能力的に言っても文句の着けようのない人材であると大々的に報じられていた、また、それにも関わらず勇者一行の写真などは一切無かった、それらに疑問はあったがだからこそ増して勇者の「七色の顔」とやらを拝んでやりたくもなった、私は身勝手に勇者への因縁のようなものを頭の中で思い描いていた、それはある種の偏狂的な因縁でしかなかった、勇者を見れば私がこの世界に転生してきた理由や謎が解けるような気もしていたのだった。




