ヨンヂュウイチ、もしくは、その名は「混頓会場電撃作戦(ボール・ルーム・ブリッツ)」
バーナードとエレンの禁断の関係は混頓によってより深いものとなった、ただ私にとってそんな副産物は何ら興味を示すものでもなかった、私は単に美しい二人の中毒者が手駒となったことを素直に喜んだ、私はバーナードとエレンに私とスティーブンスを善き友であるとして父親に紹介するようにと指示をした、現在のスピアマン家を支配するのはバーナードとエレンの父親にあたるサニードイル・スピアマンという男だ、因みに妻であるドロシーを数年前に病で亡くしている、この男を息子と娘のスキャンダルで脅し、我々のビジネスの後ろ楯となってもらうことが目的である。
混頓中毒者となったバーナードとエレンは素面であっても退廃的で空虚な雰囲気をその身に纏う美しい存在だった、私とスティーブンスはそんな二人の手引きによって彼らの屋敷でサニードイル・スピアマンと引き合うこととなった、彼の第一印象を言えば如何にも堅物そうで、その視線だけで十分な威圧感がある男だった、私とスティーブンスはバーナードとエレンに紹介を受けた通りの善き友人を演じてみせたし、それに対しサニードイルは良い反応をしていた、しかし、そんな表向きの仮面は早々に脱ぎ捨ててスティーブンスはサニードイルに尋ねたのだ。
「時にサニードイルさん、貴方は混頓は嗜みますか?」
するとどうだろう、一瞬にしてサニードイルの表情は曇り始めたのだ、彼はそんな顔で言う。
「混頓だと?下らん、あれは人間を壊す新手の都市部の病だ、組織犯罪の尖兵だ!」
私とスティーブンスは顔を見合せニンマリとした、それから私たちは自らを混頓中毒者で伝承者であることを容易く明かした、その時のサニードイルの顔と来たら正しく傑作と言える憤怒の表情であった、無論そんな様子のサニードイルから吐かれる台詞は「出ていけ!」というものだった、しかし、どうだろう、私の襟首を掴み殴りかからんとするほど切迫した感情を露にしたサニードイルが一瞬で萎んだような表情になった、私は言ったのだ、「最近、息子さんや娘さんに変わった様子はありませんでしたか?」と、それらの言葉からサニードイルは“察した”のだ、サニードイルは決まったような台詞ばかりを吐き出す本当につまらない堅物である、「ま、まさか…」、だから私は言ってやった「貴方の息子さんや娘さんは立派な、それはそれは立派な混頓中毒者ですよ」と、サニードイルはかつて無い怒声を持ってして私とスティーブンスを、そして、バーナードとエレンを罵ったがその目には涙が滲んでもいた、遂には「勘当だ!」とまで吠え出した、しかし、スティーブンスは言った「それだけじゃないのですよ」と、私はバーナードとエレンの名前を呼んだ、すると二人は壊れた笑みを浮かべて深い口づけを始めた、サニードイルは我が息子と娘に対して「狂ったか!?」とまで言い放った、混頓を一つの絆のようにしている中毒者のバーナードとエレンにしてみればもはや実の父親の前で口づけをする程度のことは容易いことだった、私やスティーブンスがサニードイルに近づくと彼は後退りした、スティーブンスは言う。
「サニードイルさん、どうしようか?貴方の息子と娘は深く愛し合っている、そして中毒者だ、こんな事が他のミルズ家やゴルダム家に知れたら…」
サニードイル自身が壊れた様に涙を流して言う。
「お前らの目的は何なんだ…?」
スティーブンスは言った。
「週に一度、土曜日の夜にだけ屋敷の一室を貸してほしい、なに、ちょっとしたパーティーをするだけだ、ただしその中で何が行われているのかは介入するな、分かったか?」
追い詰められたサニードイルに選択の余地は無かった。
スティーブンスの考えはこうだった、混頓の無法地帯を上流階級内部、つまりはスピアマン家の屋敷の内部で作り、そこを社交場としてカウレスの街の上流階級に我々の作った混頓を蔓延させようという魂胆だ、もし外部に情報が漏れてもスピアマン家の権力があれば揉み消す事も可能だ、ここカウレスにおいてならば無法が許される権力をスピアマン家は持っている、そして、私たちは遂にその権力を後ろ楯とすることに成功したのだ、もはや胸くその悪い混取締どもにも怯えずに過ごす事ができる権力、いや、自由を手に入れたと言っても過言ではないだろう、その日、私とスティーブンスは上機嫌でスピアマン家の屋敷を後にして、ダインの教会のアジトへと帰って来た、その日に限って教会の屋根裏部屋には私とスティーブンスとダインしかいなかった、私たち三人は祝杯を上げた、その時だった、スティーブンスがこう提案した。
「なぁ、ジョニサン、パーティーの名前を決めないか?
「そうだな…」
私はしばらく思案した、そこで閃いたのだ、
「混頓会場電撃戦だ」




