ヨンヂュウ二、もしくは、鮮やかに狂い悶えた夜が永久に続けばと願うワタクシは影
その日は初めての混頓会場電撃戦の夜だった、場所はスピアマン家の屋敷の中でも窓の無い地下室で行われた、地下室と言ってもその作りは家具一つにしても前世代的で煌びやかなものだったが新しい雰囲気も取り入れたものだった、クリスチャン・ディオールのニュールックに身を包んだ女性もいれば、勇者と魔王の対戦に肖りヴィクトリーロールの髪型をした女性だっていた、ジャズやポップスのレコードがひたすら回り続け、酒は流行りのカクテル等も取り揃えた、その中でカウレスの上流階級の連中が混頓を吸引し乱れる姿は見ていて実に愉快なものだった、私とスティーブンスの願いはこの混頓会場電撃戦というイヴェントに結実したのだった、酒と混頓が回ると人々は更に乱れた、彼ら彼女らは自由に体を重ねた、そんな中でも私とスティーブンスは衣服を乱さずに、また、酒をほとんど口にせず、混頓を吸引していなかった、それは自らが伝承者であり、ビジネスをしているという意識が強くあったからで、この場で冷静さを欠くことはそれらの佇まいに隙が生じると考えていたからだった、私やスティーブンスが混頓を吸引するのはダインの教会の屋根裏部屋での一時と決めていた。
バーナードとエレンはこの混頓会場電撃戦の象徴的な存在だったがあくまでも中心人物はスティーブンスだった、人の集まる場所でのスティーブンスはその輝きを存分に発揮することができた、彼の作り出したオリジナルの混頓の“セイレン”はこのイヴェントのメインに添えられた代物だった、彼はそれを駆使する伝承者として正しく教祖のように中毒者たちから崇められた、それでも私は彼に嫉妬はしなかった、彼の在るべき姿こそが今の姿であって、その才能は明らかなものだったからだ、寧ろスティーブンスの才能やカリスマ性を持ってして無様に燻っている方に私は不満があった程である、それに私の生成した“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”もスティーブンスの作り出した“セイレン”には劣るが人気の代物として扱われていた、私は今の自分の立ち位置に満足していた。
ジュディ・マスビートは完全な混頓中毒者ではあったが、以前として知的で美しい存在のままだった、そんな彼女が更に連れて来たのが自身の夫であるマックス・マスビートだった、妻のジュディの言いなりのこの男はカウレスの街の政治家でジュディより七つ年上だった、私はこの男の権力を見て近付いた、スティーブンスが混頓会場電撃戦の中心人物として活躍するのであれば、私はその影で暗躍し、このイヴェントを磐石のものとしたかったのだ、ただ、私はマックスに混頓を薦めようとはしなかった、政治家の妻が混頓中毒者であるという時点でマックスの政治家としてのスキャンダルは確立してしたし、私は素面の人間としてのマックスの権力に興味があったのだ、マックスもそれは承知の上だった筈である。
ジーン・レイクスは私とスティーブンスの心強い用心棒であった、彼女は混頓中毒者ではなかったし、この界隈から足を洗いたがってはいたが、過去に数回ほど混頓を施されたことに後ろめたさがあり抜けきれずにいた、客を連れてくることもあったが、昨今は専ら用心棒稼業に勤しんでいた、彼女は面倒な中毒者を足蹴りにするのに一役かっていた、そして、私は事あるごとにジーンを側に付けて歩いた、それは私なりの警戒でもあった、人脈が殖えるにつれて私は警戒心を強めていった、スティーブンスはそんな状況すら楽しんでいた、スティーブンスには理解し難き部分が多々あった、常にヒリついた状況を欲していたのだ、スティーブンスは混頓以上に緊張感などに取り憑かれている面があった、しかし、それがスティーブンスをより神格化させている要素の一つでもあった、正しくスティーブンス・“ワイルド”・カーターの異名そのものであった、マックスはそんなスティーブンスのカリスマに惹かれてはいたがその危うさにも気付いていた、だからその代わりに私と行動を共にするようになった、その席にはジーンも同席するする事が多かった、マックスは私に中毒者にしてほしい政治家としてのライバルが数人いることを話したりしたが、ジュディはジーンの格闘家としてのその肉体に惹かれていた、それに関してはジーンも満更でもなかったらしく、この二人の関係がより深くなるのは時間の問題だった。
混頓会場電撃戦は一夜にして幾多の人間模様を描き出す素晴らしいイヴェントだった、このような時間がずっと続けば素晴らしいと思える、そんな時間が流れていた。




