ヨンヂュウ、もしくは、壊れても壊れても尚も美しいその横顔に花束を
バーナード・スピアマンの懺悔は真摯なものだった、邪悪な我々はそれ故にバーナードは利用しやすい男であると知った。
三回目の懺悔を終えたある日、ダインによって私とスティーブンスのいる部屋へと通されたバーナードはそれでも瞬時に私たちが如何わしい人間であることを見抜いていた、だからこそ我々の態度はよりふてぶてしいものになれた、また、バーナードの懺悔などはダインから全て筒抜けだった、バーナードは己の罪を悔いていたその重みは実妹への愛そのものの重みでもあった、しかし、私やスティーブンスにとってそんなものなど何の価値も意味もなかった、私は手っ取り早くバーナードを誘惑し、混頓中毒者にしてしまおうと考えた。
私はバーナードに混頓の快感と実妹のエレンへの愛を秤にかけさせた、私はバーナードに言ってみせた「君の愛が本物だと言うのなら、最後に残るのは混頓じゃなくエレンへのその愛だろう」と、その狭間でバーナードは苦悩し快感に悶えた、精神は混乱し、それでもエレンへの愛にすがり付いた、しかし、エレンへの禁断の愛にすがればすがる程に混頓の量は増えて彼を蝕んだ、それでも彼は追いかけるのだ、混頓で酩酊しながらもエレンの名前を泣きなら呼ぶのだ、その美しい顔立ちとは裏腹の混沌を心に抱えたバーナードは正しく私の知り得る中でも最高傑作の混頓中毒者となっていた、そして、中毒者となったバーナードは私の忠実な奴隷のような存在となった。
彼は既に壊れてもいたし、それ故に以前より儚く美しい男になっていた、教会の二階に屯する混頓中毒者の女どもはそんな彼を放っては置かなかった、あのジュディでさえバーナードの横顔を見つめては口づけをしたりした、しかし、例え壊れていたとしてもバーナードの中にはエレンへの愛が残っていた。
最近のバーナードの異変に気付いたのはエレン・スピアマンだった、バーナードより二つ下の彼女は奇しくも天法典録団の寺院ではなく、ダインの光教の教会の門を叩いたのは“最愛の実兄”がもしかすると混頓に手を出しているのではないかという疑いを持ったからに他ならない、そのエレンの相談事をダインの口から聞いた時に私とスティーブンスは腹を抱えて笑ってみせたものだ、そこで私は閃いた、いっそのことエレンも混頓の世界へと引きずり込んでしまおうと考えたのだ、二人の関係と更に混頓中毒者であることを“手土産”にスピアマン家を脅せば更にカウレスの街での伝承者としてのビジネスは安泰となるに違いない、その為にはエレン・スピアマンを混頓中毒者にするしかない、私は手始めに次の相談を受けるようにダインに命令をした。
数日後、エレンはまた教会の門を叩いた、ダインは私に命令された通り、相談を受けてから二階の私とスティーブンスのいる部屋へと案内した、エレン・スピアマンは兄のバーナードに似て美しい女だった、何故バーナードがその関係性を超越してまで愛したのかが分かる程に美しく出来ていた、しかし、そういった外面的な美しさなど今の私たちには何ら意味がなかった、私とスティーブンスは手っ取り早い方法を取った、単なる小娘一人を中毒者にするだけの事に時間を割くのは無意味だと考えていたからだ、私はジーン・レイクスとスティーブンスとダインにエレンを取り押さえさせ、無理やりエレンの鼻に混頓を吸引させた、その場で倒れ込んだエレンは白目を剥き出しにして痙攣し始めた、やがて静かになると恍惚の表情を浮かべながら天を仰いだ、混頓が効き始めてきたのだ、今のエレンは人生で最上の快感に踊らされているに違いない、こうして一度でも混頓を吸引した既成事実を作ってしまえば後はその後ろめたさに付け込んで中毒者にしてしまえばいいのだ、私たちは乱れた服装や髪を直してエレンが素面に戻るのを待つ事にした。
エレンはまるで眠りから覚めたように素面に戻った、その後で自分が何をされたかを思い起こし、嗚咽し泣きわめいた、隣の部屋で「ラヴ・フラッシュ・フィーバー」を施されていたバーナードがドアを開けて現れるとエレンは泣きながら抱き締めた、感情の無い表情のバーナードもそんなエレンを抱き締めた、その二人の様子を見て私の作戦は成功したのだと確信した、後はこの二人の醜態をネタにスピアマン家に脅しをかけるだけである、THE CURTAINに、カウレスの上流階級どもに私とスティーブンスの混頓を蔓延させてやるのだ、私の伝承者としての黄金期が始まろうとしているのだ。




