サンヂュウハチ、もしくは、誘惑の火種とそこに集まる虫のような連中と
スティーブンスの“セイレン”と私の“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”をどのように蔓延させるかについてはスティーブンスに策があった、それはカウレスの街の上流階級界隈に流行らせるというものだった、カウレスは光教の聖地であるが、他の宗教に属する人間も少なからず存在する、その少数の中でも天法典録団と律厳社の二つの宗教に属する連中はそのエリート気質から合致して「THE CURTAIN」という徒党を組みこのカウレスの街の社会・文化・政治の一部を仕切るような一大勢力となっていた、スティーブンスの狙いはこのTHE CURTAINにあった、この連中の歪んだ選民意識に漬け込んで私たちの混頓を蔓延させてやろうという考えである、スティーブンスは言う。
「どこの上流階級も滑稽と言えば滑稽なんだけれども、カウレスのTHE CURTAINの連中と来たら本当に滑稽なんだよ、自分たちを選ばれた人間だと信じきっていやがるんだ、更に笑えるのは“それ故に”孤独だと言って混頓を吸引しやがる、本当に笑えるよ」
確かにスティーブンスの言うようにカウレスの上流階級であるTHE CURTAINの連中は滑稽である、そしてスティーブンスはその手口を詳細に話始めた、それは表向きは著名な僧侶のダインの教会に相談や懺悔に訪れる人間の中にTHE CURTAINの連中が混ざっているというのである、彼らはエリートである自負心を持ちながら混頓に溺れているという自責の念にも同時にかられているのだという、更にその相談や懺悔を自信らが信仰している宗教で行わないのは信仰しているエリート志向の天法典録団や律厳社からの破門を恐れているかららしい、要するにスティーブンスはこのちんけなプライドを持ったエリート思想に固執するいやらしい混頓中毒者どもを更正などさせずに寧ろとことん堕落させてやろうと考えているのである。
早速我々はその手引きをさせようとこれらのアイディアをダインに話した、彼はもはや我々の奴隷のように従順だった、何より毎日のように我々に上物の混頓を施してもらえるのだからこの奴隷生活は願ったり叶ったりの状況だったに違いない、彼はスティーブンスのアイディアを聞くなり興奮気味に絶賛した、その表情たるや混頓中毒者それそのものだった。
二、三日するとダインは一人の女を私とスティーブンスに紹介した、名前をジュディ・マスビートといった、THE CURTAINの、天法典録団の女で彼女は私やスティーブンスより若くして結婚までしていた、一見すると知的で聡明に見える美しい女ではあったが、やはり信仰する宗教におけるエリート志向に息苦しさを覚えて天法典録団内部にいた伝承者と密会し、混頓に手を出したらしい、まだ中毒者と呼ぶには日が浅い人間であって、私はこの女を自分の生成した“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”の虜にしてしまおうと考えた、彼女のような人間を混頓中毒者にすることなど造作も無かった、私もスティーブンスもジュディを言葉巧みに騙し、混頓の世界へと引きずり込もうとした、彼女は若く知的で聡明ではあったが私たちのようなスラムでのビジネス上がりの伝承者の前では無力だった、スティーブンスが言うに「天法典録団の伝承者などはお行儀の良いお遊びしかできない連中」らしく、そんな“お遊び”以上の素晴らしい快楽、本物の混頓を体験させてあげようとまで言った、ジュディは既に私やスティーブンスの甘い誘いに乗せられて、自身がまるで快楽に取り憑かれた救いようのない中毒者のように錯覚していた。
「君に本当に必要なものは更正なんかじゃなくて、本物の快楽だよ、聡明な君なら分かるだろう?」
そう言って私は「ラヴ・フラッシュ・フィーバー」をジュディに施した、彼女は眠るようにソファーに倒れ込み、やがて長く美しい髪を乱しながらその肢体をさらけ出し、ひたすら天井の無い恍惚感へと誘われている、今までに浴びたことなど無かったであろう鮮烈なる覚醒の光が今、正にジュディの全てを変えようとしている、私はその姿に美しさすら覚え、感動すらしていた、この感動こそが私の求めていた人生の輝きである、この感動こそがカウレスの上流階級どもに蔓延させるべき輝きなのである、私の施した“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”によって精神と肉体が驚異的にほどけて行くジュディを見ながら私とスティーブンスは祝杯を上げた、ダインはその横でただ、ただ、「素晴らしい!素晴らしい!」と混頓中毒者の表情でその様子を絶賛していた。




