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混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


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サンヂュウシチ、もしくは、終幕の始まりの祝福のような夜に酔え

 カウレスの街に着いて私はスティーブンスの手引きでダイン・ロバートソンと会うことができた、光教(オルラレイダ)の僧侶でありながら混頓中毒者(ボール・ジャンキー)である彼はスティーブンスのカリスマ性と施される混頓(ボール)の虜になっていた、ダインはスティーブンスの試作中の混頓(ボール)である“セイレン”をいち早く施して貰えることを条件として聖水の横流しに加担することになった、表向きは清廉潔白な僧侶であったダインだが、その裏の顔はただいやらしいだけの混頓中毒者(ボール・ジャンキー)にしか過ぎなかった、私とスティーブンスはダインのいるイルダメイダ地区のカメリナ通りにある教会の屋根裏部屋をアジトとする事にした、流石の混取締(マトリ)光教(オルラレイダ)の教会などという神聖な場所を拠点にしているとは思わないだろうとスティーブンスは酒を呷りつつダインに何らかの混頓(ボール)を施しながら笑って言ってみせた、ダインは恍惚の表情を浮かべながら深い酩酊の中に沈んで行った、その様子を見ながら私とスティーブンスは「光教神祝福(オーラ・レイ・エウケリ)」と言いつつ酒を酌み交わした、私もスティーブンスも崇めるものを持ってやしなかった、ただ混頓(ボール)のためだけに個々の宗教に属している謂わば無神論者であった、この世界における無神論者とは魔王に寝返った人間を指してはいたが、私もスティーブンスももはや勇者一行と魔王の大戦に興味を示してなどいなかった、伝承者(メスマー)として生きるということは世の(ことわり)から外れて生きていくということでもあった。


 それからの数日は私とスティーブンスは教会の屋根裏部屋に籠る形になった、スティーブンスは試作の“セイレン”を完成させるために試行錯誤していたし、私はダインが横流ししてくれた聖水を元にひたすら“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”を生成していた、光教(オルラレイダ)の聖水があればそのレシピ自体はとてもシンプルだ、聖水に催眠魔法をかけてから火属性魔法でゆっくりと炙る、そこに浮いてきた結晶にエリクサーを混ぜつつさらに火属性魔法でゆっくりと炙るというのを三回丁寧に繰り返して完成するのが“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”だ、ただ、火属性魔法のバランスやコツ、催眠魔法そのものが複雑な為に上にエリクサー自体も高価で繊細なアイテムであって素人では生成が難しいのだ、しかし、その奥義をキーンより伝授された今の私には難なく生成ができる代物である、また、“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”は聖竜信仰教(ドラゴレイダ)の信者が扱える混頓(ボール)の中でも特殊なものだ、使用中に日の光を浴びてしまうと使用者はもがき苦しみながら砂のようになって消滅するというのだ、しかし、魔法や魔物(モンスター)が存在するこの世界においてそれは信じることができる話だろうと私は思った。


 私にせよスティーブンスにせよそんな調子で混頓(ボール)を生成しており、一日はあっという間に過ぎて行った、そして、一日の終わりは屋根裏部屋のソファーに疲弊した体で寝そべりながら酒を飲みながらぼんやりと過ごすのが日課となっていた、そんな生活を一週間続けたある日、スティーブンスの“セイレン”は完成したし、私の“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”も一定の在庫を確保することができた、その夜、私とスティーブンスとダインはちょっとしたパーティーをした、スティーブンスはダインに“セイレン”を施し、私とスティーブンスは“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”を吸引した。


 視界からは直線が消え、全てが歪んで行くのが分かる、目に写る色彩一つ一つの鮮度が最大限にまで引き上げられて、やがてそれらは一定の規則性を示してから解放されて行くという行為を繰り返していく、ひたすら繰り返される解放に止めどない快感を覚え、感覚は際限無くとろけて行くのだけだ、まるで大海の一部になったかのように、精神は快楽の波そのものとなってただ、ただ波打つ…そこに降り注ぐ鮮烈な覚醒の光、それこそが“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”だ。


 今までに無い神秘体験と言える感覚だけが体内に籠っているのが分かる、私は伝承者(メスマー)として間違いなく素晴らしい最上の仕事をしたと言えるだろう、スティーブンスも満足げな表情を浮かべているのが見える、ダインもスティーブンスの作ったオリジナルの混頓(ボール)である“セイレン”を施されて言葉を失うほどの快感に身を投げ出している、私の意識は未だに朦朧としていた、この正気と狂気の狭間で私が他に言えることは何も無かった、ただ感じるままに身を任せて漂うだけだ、今の私には全てがどうでもよかった、何故私がこの世界にやって来たのか、勇者と魔王とは何なのか、もはやどうでもよかった、今、私の人生は正しく輝いているのだ、この輝きを蔓延させるのだ、それが新しい私の目的なのだ。


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