表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混頓中毒者異世界無残 ボール・ルーム・ブリッツ  作者: 黒い犬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/42

サンヂュウイチ、もしくは、荒涼たる拳の集いし地下世界で蠢く男ども

 “スクリュー・アップ”を吸引したマークライトは正しく勇敢な男ではあったがその分だけ無謀だった、スラムの通りの行く人々、それこそ老若男女問わずに喧嘩を売った、私とスティーブンスはそれを止めながらマークライトをどうにか引っ張りながら「ソリッド・フィスト」の会場へと連れて行った、この時点で私などは疲労させられていた。


 会場は既に熱気に包まれており、異様な雰囲気だった、男たちの人数も前回より多く、会場の広い地下室ですら酸欠寸前だった、私は事前に生成しておいた“獣の嵐”をマークライトに施すと彼は暫く酩酊状態になり、その場で倒れ込んだ、私は彼を引きずりながら会場の隅に寝かせておいた、もう暫くもすれば彼は“復活”するはずである。


 男たちのサークルの中心にはスティーブンスがいた、相変わらず会場を煽りまくっている、彼の言葉は実にプリミティブでラディカルかつシンプルなものだった、それらは会場の男たちのアドレナリンをとことん鮮烈に分泌させた、拳と拳とのぶつかり合いが一つの言語であり哲学や思想であるかのように神聖視され、血と汗は一滴一滴が重たく流れ続けた。


 かのウインター・サンダーボルトの拳がマフィアの現役用心棒の男のテンプルをとらえた、全身にオールドスクール・タトゥーを彫った男と暴力沙汰でクビになった元・フットボール選手の男は壮絶なクロスカウンターを披露した、おおよそ外の世界の価値観では理解できない男たちの殴り合いがここでは至上の芸術行為の様だった。


 いよいよマークライトの出番が来た、私はスティーブンスのコールでその名が呼ばれて幾分慌てながら会場の地下室の隅で倒れ込んでいたマークライトを叩き起こした「出番だぞ、いつまで寝ているんだ、起きろ!」するとマークライトはその目を突然見開くと深呼吸を一度して起き上がった、明らかに様子が違う、“獣の嵐”が効いているようだ、マークライトの一回戦目の相手の男は元・プロレスラーの男で名前をボーン・バスターといった、世の中プロレスの“黄金期”にあって、ショーアップされた業界に馴染めず「ソリッド・フィスト」の世界にやってきた純然たるファイターと呼べる男だった、マークライトには先ずこのボーン・バスターに勝って貰わなくてはウインター・サンダーボルトとの対戦すら叶わないのだ。


 男たちの怒号のような声が鳴り響く中でマークライトとボーン・バスターとの試合が遂に始まった、ボーンが突然雄叫びを上げると試合開始早々から凄まじい勢いでパンチを畳み掛けて来る、そのパンチにスピードは無いが当たれば一撃がとても重たくマークライトの骨を砕くだろうものだ、そのパンチを紙一重でかわすマークライト、混頓中毒者(ボール・ジャンキー)でファイターとしては下り坂の男であるが、元々は一級品のファイターだっただけあって“獣の嵐”を吸引した今、その動きは全盛期、それ以上のものだろう、あとはチャンスやタイミングを待ち、パンチを的確にヒットさせてダメージを稼ぐだけである、マークライトとボーン・バスターでは体格差があり、マークライトが一撃でボーン・バスターを倒す事は不可能だろう、しかし、マークライトとて手練れのファイターだ、そこはボーン・バスターの左の顎をとらえて一撃で仕留めてみせたのだ、勝負は一瞬で決まった、会場の熱狂に拍車が掛かる、マークライトの勝利の雄叫びが鳴り響く、今、この場所に満ち溢れている興奮は肉体が勝ち取った精神と魂の高揚感なのだろう、この調子で行けばマークライトはウインター・サンダーボルトに勝つことができるのではなかろうかと私は思った。


 その後も様々な連中の試合が続いたが、やはりウインター・サンダーボルトは圧倒的な強さを誇った、続く試合でも相手の鼻っ柱をへし折るパンチを繰り出し圧勝、かと思えばマークライトだって負けてはいなかった、またしても体格差のある相手ファイターを今度は的確なボディーブローで沈める事に成功し勝利を収めた、血と汗、とにかくこの地下室の会場では血と汗がまるで(きん)と同等の価値をもってして流れて行く、骨と筋肉は軋み、闘争心のみが感情(こころ)となる、それを燃やし尽くす熱狂、それを生み出す男たちの拳、そして、更に流れる血と汗…、その中をひたすら原始的な言葉で煽り立てるスティーブンスの姿は単なる煽動者(アジテーター)ではなくカルト宗教の教祖のようであった。


 この熱狂の渦の中にあっても私は冷静さを失わないでいれたのはスティーブンスの時折見せる少年のような横顔があったからだったのかもしれない、散々と会場を煽りながらも彼は時折に無邪気で無防備な笑顔を曝すのだった、きっとこの熱狂の地下室でそれに気付いているのは私ぐらいだったのかもしれない、彼、スティーブンスはこの熱狂と混沌を心底楽しんでいた、今、この場所がどの様な場所となっているのかを明確に理解もしていた、きっと彼は私以上に冷静な視線と思考を持ってこの狂乱の爆震地にいるのだろうと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ