第87話「図面が読めない? じゃあ、描いて見せよう」
「神原、明日までに西面の壁立ち上げな」
異世界の現場でも、やることは変わらない。
だが、ここには――「図面を読む文化」がなかった。
「……この図面、見てわかる?」
匠が描いた墨出し図を、現地の職人たちに手渡すと、彼らは首を傾げた。
「線がいっぱいあるな……」「ここに“穴”を開けるってことか?」
「いや、これは柱だって!」
「ちがう、この数字……“4.5”ってなんの数だ?」
(やっぱりか……図面が読めねぇ……)
日本の現場では当たり前に使われる図面も、ここでは“呪文”のような存在だった。
事務所に戻り、匠はエルに相談する。
「なぁエル。図面を、“誰でも理解できる絵”に変えることって、できないか?」
《それなら、光属性の“視覚展開”魔法が応用できます》
「おっ、それだ。どんな魔法なんだ?」
《図面の要素を、立体映像のように“投影”するものです。さらに、“工程”や“順序”をアニメーションとして表示も可能です》
「……それ、BIMみたいなもんだな。すげぇ時代になったな、異世界なのに」
次の日。
匠は広場の中心に簡単な木製スクリーンを立て、そこに魔力を込めた設計図を載せた。
すると――
建物の立体図が空中にふわりと浮かび、光の線が階層を積み上げていく。
「うおっ……!」
「これが、できあがった姿か……!」
「さっきの紙の線が、ここにつながってんのか!」
さらに、施工順を示す線がアニメーションで動き始め、次に積む石、取り付ける木材、補強する位置を、まるで“しゃべるように”表示した。
匠は言う。
「図面ってのは、現場の“言葉”なんだ。でも、読むのが難しければ――“見せる”。これが、おれのやり方だ」
その日の午後。
現場では、職人たちが図面を“目で見て”作業を進め始めた。
「この通りだな! あの赤い線が今やってる工程だ!」
「すげぇよ、“あの線”が動いてるだけで、みんなの動きがピタッと合う」
親方も、図面を前にぽつりと漏らす。
「……見えるようになると、迷わなくなるんだな」
エルがささやく。
《言葉が通じずとも、図は伝わる。あなたの“現場魔法”、また一つ、浸透しましたね》
「ふふっ、建設ってのはな……“伝えること”が一番大事なんだよ」




