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第85話「段取りか、勢いか」

「いいか、今日はここを一気に立ち上げるぞ! 男は数だ、数!」


朝のミーティングもなしに、異世界の職人たちは勝手に散らばって作業を始めた。指示も共有もなく、ただ「早く終わらせる」ために、資材が積まれ、壁が積み上げられていく。


匠はあきれていた。


(何やってんだコイツら……)


寸法を測っていない、墨も引いていない、誰も周囲と確認を取らない。


なのに作業はどんどん進んでいく。まるで「経験と勘」だけで動いている。


匠は慌てて、中央で叫んだ。


「ちょっと待て! このままじゃ、絶対にズレるぞ! まず工程の打ち合わせをしてから……」


「……口だけか? あんたが“監督”ってやつか?」


現場の親方――大柄で口の悪い男が、匠に詰め寄る。


「こっちはなあ、30年、この国で建物を造ってきたんだ。あんたの“紙の呪文”より、俺たちの手のほうが正確なんだよ!」


「……だったら聞く。お前ら、その手で何棟、予定通りに終わらせた?」


「なにっ……!」


現場が静まりかえった。


「段取りも計画もなしで、ただ“勢い”で進めるのはな、やってる感は出る。でもそれ、後から全部直すんだろ? だったら最初に整えろ。それが“段取り”だ」


親方が睨み返す。


「手順ばっかで現場が止まったら、本末転倒だ!」


「段取りは止まるためにあるんじゃねぇ、“止まらないようにする”ためにあるんだよ!」


――バチッ。


ふたりの間に、火花のような空気が走った。


その日の午後。


匠はあえて作業を止めさせ、現場の中央に簡単な工程表を掲げた。


「明日はここの壁。資材はこの順番で置いて、作業員は5人に絞る。俺が図を描く。必ず、みんなに見せてから始める」


親方は黙ってそれを見ていたが、ふと、手にしていた墨壺を置いて言った。


「……一度、見せてもらおうか。お前のやり方で、どう“組み上がる”のか」


匠は、うなずいた。


その夜。


エルがぽつりとつぶやく。


《ぶつかりましたね。ですが、必要な衝突でした》


「まぁな。あいつら、腕は確かだ。でも、整理されてない」


《異世界の建築は、“伝統”という名のカオスです。けれどそれを、あなたは“構造”に変えることができる》


「魔法みたいな言い方すんなよ」


匠は笑った。


《……あなたが“現場監督”で良かった》



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