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第77話「1枚のズレが、100枚のズレになる」

「神原、タイルのサンプル、施主決まったってよ。今日から貼り始めな」


事務所で丸山課長が声をかけてきた。


「了解です。3階西面からスタートっすね」


匠は図面を手に、外壁足場へと向かった。


※外壁タイル工事とは:


建物の外観を彩る「タイル貼り」は、美観・防水・耐久性に大きく関わる仕上げ工事。

下地のレベル・平滑度が重要で、1枚のズレが目地に連鎖し、全体の精度に影響を及ぼす。

接着材の塗りムラや施工不良は、剥離事故にもつながるため慎重さが求められる。


外壁では、職人たちがタイル貼りの準備を進めていた。


縦横の通りを決める“基準出し”


タイル糊(接着剤)の撹拌と塗布


墨出しに合わせて一枚ずつ丁寧に貼り付けていく作業


「よーし、3段目まで貼ったら目地確認いくぞー!」


職人たちのかけ声が足場に響いた。


「……ちょっと、通りが怪しいな」


匠は目を細めて、貼り上がったタイルのラインを確認した。

水平器では微妙にわからない程度の“たわみ”が感じられた。


《微細な傾き、右に1.8度。魔法で補正しますか?》


「まだだ。これは俺の現場。ギリギリまでは自分の目で見たい」


だが、タイルは“1枚のズレ”が、10枚後には“目地1本分のズレ”になる。


「……よし、風で乾燥加速させて、今日中にもう2段いくぞ!」


《了解しました。表面乾燥レベル3、風圧は作業員に感じられない範囲で送風します》


匠は気づかれないよう風魔法を起動し、接着剤の乾きに差をつけることで段取りを最適化した。


「神原さん、さっきのライン……やっぱ通り直しました」


「気づいた? そしたらもう一人前だな」


「いや、それが……なんか、“風が教えてくれた気がして”」


匠は一瞬、内心ヒヤッとしたが、ニヤリと笑って返す。


「そういう“現場の勘”ってのは大事にしろよ」


タイル貼りが順調に進み、今日の目標エリアは無事完了した。


貼り終えた外壁は、まるで布目のように整然と揃い、建物全体が“表情”を持ちはじめていた。


所長の武藤が通りがかりに足を止める。


「おぉ……見事な通りだな。こういう仕事、施主は黙っててもわかるぞ」


「ありがとうございます」


その夜、事務所でエルに語りかけた。


「タイルって、積み重ねだな。小さなズレを許さない」


《小さな妥協は、大きな歪みに変わります。……人間関係も、魔法の力も、同じですね》


「うっ……耳が痛ぇ」


エルの言葉に、思わず笑ってしまった。

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