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第69話「鉄板の下のささやかな魔法」

「神原、今日から北側出入口、ガードマン追加されてるからな」


朝の事務所。丸山課長が書類に目を通しながら、コーヒー片手に呟く。


「この時期、搬入増えてるし、近隣からも苦情来やすいから注意な」


「了解です。現場誘導も再確認しておきます」


※ガードマン(交通誘導警備員)は、工事現場において車両や歩行者の安全な通行を確保する役目を担う。

特に高齢者が多く、夏場の熱中症や持病のリスクもあるため、現場監督は気配りが不可欠な存在だ。


北側の出入口では、新しく配置されたガードマンが反射ベストを着て立っていた。


「おはようございます、よろしくお願いしますね」

匠が声をかけると、白髪混じりのその男性は軽く笑って頭を下げた。


「おはようございます。三井っていいます。よろしくです」


優しそうな表情だが、年齢はおそらく70近い。

炎天下の中、片手に赤い誘導棒を持ち、通行車両に丁寧に頭を下げていた。


昼前。

市川が資材運搬の手配から戻ってきて、少し眉をひそめた。


「神原さん、北側のガードマンさん、ちょっとフラフラしてましたよ。日陰もないし、心配っす」


匠はすぐに現場の片隅にある北側出入口へ足を向けた。

案の定、三井はゆっくり腰を下ろしていた。


「すみません、ちょっとくらっとして……。水は飲んでたんですけどね」


「ここ、日差しキツいですからね。少し休みましょう」


匠はスマホを手に取り、静かに目を閉じて呟いた。


「光属性……癒やしの波動。疲れをそっと拭ってやってくれ」


《“小癒しょうゆ”発動。軽度の疲労を穏やかに癒します》


風もない昼の空気の中、一瞬、三井のまわりにやわらかな光が揺れた。


「……おや? なんだか、急に体が楽に……」


「多分、風が少し通ったんでしょう。気圧の変化かもしれませんね」


「はっはっ、なんだか不思議だね。でも、ありがとう」


匠は笑って首をかしげる。


「ご無理なさらず。こっちでテント出しますから、日陰作りましょう」


午後、ガードマン用の簡易テントが設置され、三井はその下で穏やかに誘導を続けていた。


「こんな配慮してもらったの、初めてですよ。最近はどこ行っても人手が足りなくて、ね」


「だからこそ、大事にしたいんです。事故ってからじゃ遅いんで」


匠の言葉に、三井は深く頷いた。


事務所に戻ると、エルが微笑みながら現れた。


《光の癒しは、肉体だけではなく、心の安らぎにもなりますね》


「そうだな。現場は物だけじゃなく、人の手で動いてるからな」


《優しさも、建設の一部……ですね》


「いいこと言うじゃねぇか。よし、次は日陰の作業スペースも再確認しよう。今日のこの暑さ、まだ続くぞ」


匠はスケッチブックを手に、場内の日影マップを描き始めた。

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