第64話「鉄筋と炎と、そして乾杯」
神原、お前んとこの打設、無事終わったってな」
所長の武藤がニカッと笑って言った。
「はい。全区画、レベル・スランプ・打設スピード、全項目クリアです」
匠が胸を張って答えると、武藤はおもむろに言った。
「だったら今夜、久々に“慰労会”でもやるか。職人たちも疲れてんだろ」
「……いいですね。ちょっと声かけてみます」
その夜、現場から少し離れた河川敷に、ポータブル式の焼き台とコンロ、折りたたみ椅子が並んだ。
“神原現場”の職人たちが、集まりだす。
「いやー、今日の打設、完璧でしたね」
高槻が缶ビールを持ってやってきた。
「ちゃんと定着長も取れてたし、バイブも全エリア入った。完璧すぎてちょっと怖いな」
匠が笑うと、高槻も吹き出した。
「……あ、神原さん。ほら、来てますよ」
振り返ると、鉄筋屋の親方・水野、型枠の職長・仁志、左官の加納、電気屋の市川まで。
みんな、口は悪いが笑っている。
「おう、神原! 肉はどこだ!」
「酒もってきたぞ、課長の机から!」
「おいおい、それバレたら俺のせいになるだろ!」
「今日は忘れろ! かんぱーい!」
※建設現場では、打設完了や工程節目ごとに“慰労の場”を持つこともある。
現場は“人”が支えている。職人・監督・業者同士の信頼は、こうしたオフの場から生まれることもある。
職人たちの談笑の合間、匠はひとり空を見上げた。
「エル、今日は魔法なしだ。……でも、これがいちばん“効く”かもしれないな」
《……あたたかいですね。火の気配も、人の気配も》
「現場は、“想い”で動く。今日それが、よく分かったよ」
深夜、火が消え、ひとり、現場に戻る匠。
足元には、打設を終えたスラブが静かに固まりつつあった。
その上に、今日の笑い声が染み込んでいくようだった。




