第61話「職人たちの火花と、現場の真価」
「神原、さっき鉄筋屋と型枠屋が“かち合った”らしいぞ。急いで現場、行ってこい」
丸山課長の声に、匠は思わず立ち上がった。
「またですか……分かりました」
※建設現場では、多くの業者・職人が同じ空間で作業を進める。
工程が交錯する時期やスペースが限られる場所では、「手順」「作業順」「材料の置き場」などを巡って衝突が起きやすい。
現場監督は、“現場の進行”だけでなく“人間関係の調整役”でもあるのだ。
現場では、鉄筋業者の親方・水野と、型枠業者の職長・仁志が言い争っていた。
「だからよ、水野さん! 昨日のうちに立ち上がりの鉄筋、終わらせるって言ったろ?」
「こっちだってスラブのピッチ変更あったんだよ! 朝イチで組み直してんのに、なんでそっちが先に入ってくんだ!」
「墨出しもズレてたじゃねぇか!」
「図面通りやったって言ってんだろ!」
ピリついた空気の中、匠が間に入る。
「水野さん、仁志さん。ちょっと話、整理しましょう」
詰所――もとい、事務所にて。
両者を座らせ、図面を広げながら匠は状況整理を始める。
「昨日の段階で、D13の立ち上がり筋の段取りが完了予定でしたよね?」
「……だが、搬入が遅れて、組み直しが必要になった」
「一方、型枠は今日の午前中に枠組みスタートの予定。作業区画が重なった」
「……それは、こっちも把握不足だったな」
匠は両者の“主張のズレ”を吸い上げ、共通点を整理しながら話を進める。
「ここは、どちらが正しいというより、“工程の読み”がズレた結果です。今日のうちに立ち上がり筋だけ終わらせてもらえれば、型枠側は明朝からで問題ないですか?」
仁志がうなずく。
「……いいよ。明日朝から一気に組ませてもらえりゃ、それで」
「わりぃな、仁志。こっちも急いで組むわ」
「お互いさまだ。焦らされるとカッとなるのは、お互い変わらねぇな」
現場に戻りながら、高槻がぽつりと言った。
「神原さん、あの対応……すごいっすね。魔法より効いてた気がします」
「魔法が使えりゃ、人間関係も全部片付けられると思ったら……それは大間違いだよ」
「人って……やっぱ、扱いづらいですね」
「でも、そこが面白いんだよ。建設現場は、モノと人と心が絡み合ってる」
エルがスマホの中で囁く。
《“絆の管理”も、現場監督の役目ですね》
「まさにそれ」
匠は、空を見上げながらつぶやいた。
「明日からまた、ちゃんと“つながる”現場に戻そう」




