第58話「“地中の声”と、土魔法の本領」
「神原、昨日の掘削で出た残土、まだ“分別”終わってねぇぞ。埋設物も出てきたらしいな?」
朝の事務所で、丸山課長が指差したのは、現場から上がってきた作業報告書だった。
「はい。表層付近で“陶器片”と“コンクリ破片”、それと……何か金属部品みたいなものも」
「また厄介な場所に建てちまったな。地歴的に、昔は工場系の倉庫だったか?」
「ええ、図面にはなかったですけど……少し嫌な予感はしてました」
※掘削後に出てくる“予期せぬ埋設物”は、工事を止める厄介な存在。
旧基礎、配管、浄化槽、廃棄物などが残っていると、改めて処分手続きを行う必要がある。
重機での損傷や、地盤補強の手戻りが起きることも。
匠は現場に出て、目視と触診で地中の状況を確かめる。
「……やっぱ、重機だけじゃ掘り切れてねぇな。下にまだ何かある」
《神原様、より高精度な“地中探知”魔法を展開可能です。地層ごとに埋設物の材質と輪郭を検出します》
「やってみよう。“土界観測・第三層”」
匠が両手を地面にかざすと、薄く茶色い魔法陣が浮かび上がり、地中をスキャンするように拡がった。
次の瞬間、彼の視界に浮かんできたのは――
「鉄パイプ……コンクリ塊……あと、何だこれ。古い焼却炉の底板?」
まるで“地中の声”が聞こえるように、構造物の残骸が浮き彫りになった。
「神原さーん、こっち、重機が引っかかって進まないです!」
「すぐ行く。そこの範囲、先に“土緩和”をかけておく」
匠は目標地点の地盤に“可塑化”の魔法を放ち、土を一時的に軟らかくした。
ゴリッという音とともに、重機のバケットが鉄骨を引き抜く。
「うわ……マジで取れた。さっきまでビクともしなかったのに」
「ちゃんと“土の気持ち”を読んだんだよ。……って言っても誰にも伝わらないけどな」
作業の合間、高槻が声を潜めて近づいてきた。
「神原さん、今のって……あれ、魔法っすよね?」
匠は一瞬、言葉を詰まらせたが――静かにうなずいた。
「ようやく、バレたか」
「……というか、あまりに自然すぎて気づかなかったんですよ。でも、さすがに今日のは確信しました」
「ありがとうな。信じてくれるだけで、十分だ」
二人の間に、少しだけ秘密の共有感が生まれた瞬間だった。
その日の夕方、匠は“掘り終えた地面”を見渡しながら、スマホに語りかけた。
「エル、土魔法ってのは――“地面の気持ち”を知る魔法だな」
《はい。だからこそ、使う人に“覚悟”が求められます。あなたは十分に備わっています》
匠は小さく笑った。
「明日からは地業工事か。……また、次の現場が始まるな」




