第57話「掘削工事と、“地を読む”魔法」
「神原、今日から本掘りな。安全第一で頼むぞ。地盤、読めよ?」
朝の事務所で、丸山課長が資料をパタンと閉じながら言った。
「はい。山留も入ってるんで、手順通りで掘っていきます」
※掘削工事(根切り工事)とは、基礎を作るために地面を掘る作業。
地中の支持層に届くまで掘り進めるため、地盤の状態・周囲の構造物・水の流れなど、あらゆる条件に注意が必要。
掘削が深くなるほど、山留や排水の管理も重要になる。
現場では既にユンボ(油圧ショベル)がスタンバイしていた。
今日は深さ2.5メートル、面積約250平米の大掘削。
神原は、作業員と重機オペを集めて打ち合わせを開始する。
「まずは東側から掘って、順番にブロック分けて。湧水出そうなら、すぐポンプ設置」
「了解っす。……神原さん、地盤、若干緩いかもです」
「だろうな。昨日の雨もあるし、慎重にいこう」
匠はヘルメットの中で、そっとスマホに話しかけた。
「エル、そろそろ“土属性”の本格展開、できるか?」
《はい。現場の地盤構造を視認化する“地読図”を展開します》
匠の指先から、淡く茶色い光が広がる。
すると地面の“中”――硬さ、水分量、埋設物、層の傾き――が、透視図のように神原の視界に浮かび上がる。
「……やっぱり、南東側が弱いな。ここ、旧建物の杭が残ってるっぽい」
「マジっすか? スケルトン透視でもしてんすか?」
「長年の“勘”だよ。経験だ経験」
高槻のツッコミは無視して、匠は現場に指示を飛ばした。
「南東側、残土出す前に一度“掘り止め”。トン袋敷いて様子見ろ。湧水は手前で抑えろ」
作業が始まると、問題のエリアで予想通りの“地すべり”が始まりかけた。
「まずいっす! 土が崩れます!」
「エル、“土圧固着”いけるか!」
《限定エリアに地盤圧着魔法を展開。崩壊を一時的に食い止めます》
神原の足元から茶色の光が駆け抜け、地面がしっかりと締め固まっていく。
「……持ち直した!」
「うお、これ……マジで効いてるよな? どう考えても“重機の操作”だけじゃない……」
高槻はついに確信を持ち始めていた。
その日の午後、予定よりも30分前倒しで掘削は完了。
作業員が地面を整えている中、武藤所長がひょっこり現れた。
「神原、ようやったな。なんか最近、現場の“沈まない力”があるよな。安心感がある」
「ありがとうございます。……ま、地面を“よく見てる”だけですよ」
《“地を読む力”とは、魔法ではなく、あなた自身の職人魂です》
エルの言葉に、匠はそっと頷いた。
「俺は、地面を掘ってるんじゃない。未来の建物の“土台”をつくってるんだよ」




